北欧神話02:北欧神話の創世神話とは?ユミルと世界の始まりを解りやすく紹介
創世神話:世界の始まり
静寂と混沌が支配する時代
遥か昔、世界はまだ存在していませんでした。光も闇もなく、大地も海もありません。ただ広がるのは無限の空虚――ギンヌンガガプと呼ばれる、果てしない混沌だけでした。

この混沌の中、二つの力が静かに胎動していました。一方は北方に広がる氷と霧の世界、ニヴルヘイム。もう一方は南方に燃え盛る炎の国、ムスペルヘイム。
やがて、ニヴルヘイムの氷とムスペルヘイムの炎が出会う時、運命が動き出します。氷が溶け、滴る水滴から最初の生命が誕生しました。それがユミル、巨人の祖です。
ユミルと最初の生命たち

ユミルは巨大で力強く、彼の体から新たな生命が生まれていきます。彼が眠るたびに脇の下から男女の巨人が生まれ、彼の足からさらに新たな命が芽吹いたのです。
しかし、それだけではありませんでした。同じく氷が溶けた水滴から、一頭の神聖なる牛アウズフムラが生まれたのです。彼女の乳を飲み、ユミルは生きながらえました。アウズフムラは大地の氷を舐め、そこから新たな存在を生み出しました。それがブーリ、のちに神々の祖となる者です。
オーディンと神々の誕生
ブーリは息子のボルを持ち、ボルは巨人の娘と結ばれました。そして二人の間に生まれたのが、オーディン、ヴィリ、ヴェーの三兄弟です。彼らこそ、後に世界を創るアース神族の始祖となる勇者たちです。

オーディンたちは成長すると、自分たちの運命を悟りました。この世界を支配するには、ユミルを倒さなければならないと。彼らは力を合わせ、恐るべき巨人ユミルと戦ったのです。

激しい戦いの末、ユミルは倒れました。彼の血が流れ出し、巨人たちのほとんどを押し流してしまいました。そして、彼の亡骸こそが、我々の住む世界の素材となったのです。
世界の創造
オーディンたちはユミルの亡骸を用いて、世界を創り上げました。

- 彼の肉は大地となり、
- 血は海や川となり、
- 骨は山々となり、
- 髪の毛は樹木となり、
- 頭蓋は天へと掲げられ、空のドームとなりました。
さらに、ユミルの脳からは雲が生まれ、空を漂いました。オーディンたちはムスペルヘイムの火花を天へと放ち、星や太陽、月を創造しました。
そして、世界の四隅には**ドヴェルグ(小人)**たちが立てられ、天を支える役目を負わされたのです。こうして、大地と空、海と山が生まれました。
人間の誕生
最後に、オーディンたちは命ある存在を創り出そうと考えました。

海辺に打ち上げられた二本の流木。それを見たオーディンたちは、それぞれの力を与えたのです。
- オーディンは魂と生命を与え、
- ヴィリは知性と感情を吹き込み、
- ヴェーは言葉と感覚を授けました。
こうして、人間の祖先であるアスクとエムブラが誕生し、ミズガルズ(人間の世界)で生きることとなったのです。
運命の始まり
こうして、世界は創られ、神々と巨人、人間の時代が始まりました。

しかし、神々でさえも運命からは逃れられません。運命を紡ぐノルンたちが既にその糸を織り始めていました。
そして、この新たな世界の終末──ラグナロクへと続く運命が、静かに動き始めていたのでした。
次回:「主神オーディンと知識の探求」へ続く──。
追記:アスクとエムブラはアダムとイブ?
アスク(Ask)とエムブラ(Embla) の名前は アダム(Adam)とイブ(Eve) の響きに似ていますね!
これは偶然ではなく、多くの神話に共通する「最初の男女の創造」というテーマが影響している可能性があります。北欧神話では、アスクとエムブラは 流木 から作られ、オーディンたち神々によって命を吹き込まれました。一方、アダムとイブは聖書において 神の手で創られた最初の人間 という共通点があります。
また、「Ask(アスク)」は古ノルド語で「トネリコの木」を意味し、「Embla(エムブラ)」は「ツル植物」や「ニレの木」を指すとも考えられています。これは、アダムが「土」から、イブが「アダムの肋骨」から創られたという聖書の神話と対比できますね。
こうした神話の共通点を探すのも面白いですね。