マヤ神話④:フンフンアフプーとヴクブ・フンアフプーの物語:双子たちの使命の始まり
1. 神聖なる球技場の響き
木で人間を創造した神々でしたが、それは納得のいく成果を得られませんでした。神々は洪水を起こし、木で作られた人間たちを滅ぼしました。これにより宇宙の秩序が乱れ、冥界の支配者たちが勢力を強めました。
そのころ地上界では・・・
地上界の中央に位置する神聖なる球技場で、フンフンアフプーとその兄ヴクブ・フンアフプーが楽しげに球を打ち合っていました。彼らは兄弟でありながら、神々から特別な才能を授かった存在。球技(ポクトック)の腕前は地上で並ぶ者がいませんでした。
「この音だ、完璧な響きだ!」フンフンアフプーは大地を震わせるような球の打音に満足げな笑みを浮かべました。
しかし、彼らの遊びはただの楽しみではありませんでした。
球技は神聖な儀式であり、神々への捧げ物でもあったのです。
だが、その音が地上を越え、冥界シバルバの奥深くにまで響いたとき、事態は一変しました。
ここで解説を。フンフンアフプー達は人ではない。だが神でもない。彼らは、神聖な神の血統を持ちつつも地上界や冥界で活動する半神的な存在として認識されている。神々ほど全知全能ではないため、人間的な弱さや感情を持つことも特徴だ。
人でもなければ神や天使のような存在ではないとだけ知っていてくれ。では続きを。
2. 冥界シバルバからの召喚
シバルバの支配者たちは、フンフンアフプーたちの球技の音に激怒しました。
「地上の者どもが我々を侮辱している!これは許せぬ!」
支配者フンカメ(「1つ目の死」)は、怒りを露わにしました。
彼らにとって、地上の者が神聖な球技を行うことは、自分たちの権威への挑戦と受け取られたのです。
そこで支配者たちは使者を地上に送り、フンフンアフプーとヴクブ・フンアフプーをシバルバに招待するよう命じました。しかし、この「招待」は罠でした。兄弟は使者の言葉を疑わず、冥界への旅路に向かいます。
3. シバルバへの試練の始まり
冥界に到着したフンフンアフプーたちは、不気味な雰囲気に圧倒されました。
地上界とは異なり、シバルバは薄暗く、血の川や膿の川が流れる恐ろしい場所でした。だが、兄弟は勇敢に進みます。
支配者たちは早速、兄弟に試練を課しました。
暗闇の家(Dark House)
最初の試練の舞台は「暗闇の家」でした。
「この松明と葉巻を朝まで燃やし続けよ。それができなければ命を奪う」と支配者たちは命じました。
兄弟は暗闇の中で松明を灯しましたが、やがてその炎は小さくなり、やがて消えました。この試練に失敗した彼らは、シバルバの支配者たちの計画通り、追い詰められていきます。
4. 球技場での運命の戦い
次に、支配者たちは兄弟を球技場へと連れて行きました。
「我らと勝負するのだ。この試合に負ければ、命を差し出してもらう」
と支配者たちは言いました。
フンフンアフプーたちは、自分たちが球技の達人であることに自信を持っていました。
しかし、球技場には罠が仕掛けられていました。支配者たちは呪いの球を使用し、兄弟を追い詰めました。
試合の末、フンフンアフプーとヴクブ・フンアフプーは敗北しました。
5. フンフンアフプーの最期
勝利した支配者たちは兄弟を処刑し、フンフンアフプーの首を切り落としました。その首は聖なる樹に吊るされ、恐ろしい姿で冥界の象徴として飾られました。
しかし、この首には不思議な力が宿っていました。時間が経つと、この首が甘い言葉で美しい女性、イシュキックに語りかけ、新しい生命を授けたのです。
これが、後の双子の英雄、フンアフプーとイシュバランケの誕生のきっかけとなります。
残酷な話でしたね・・・
本来は世界の3層間で調和を保ち、混沌の力(カオス)を制御していましたが、フンアフプー達(半神)の死後の復活(転生)を妨げたことで、カオスの力は増大しました。
結果、シバルバ(冥界)は恐怖の対象となり、シバルバの支配力が拡大しました。しかし、その高潔なる魂と意思は一人の女性に命を宿しました。
まずは、この節でいったん区切りです。
この後の展開の前に、少し話を整理してみましょう。
冥界の支配者たちの本来の役割
- 冥界シバルバとその支配者たちは、生命と死の循環の重要な要素として存在します。
- 魂の試練を通じて、死者を再生の過程に導く役割。
- 天界と地上界、そして冥界をつなぐ宇宙のバランスを保つ存在。
- つまり、シバルバの支配者たちは、混沌と秩序のバランスを支える「混沌の管理者」のような役割を担っていました。
支配者たちの逸脱
フンフンアフプーとヴクブ・フンアフプーを試練にかけ、罠にはめて処刑したことで、彼らは生命の循環を妨げる行為を行いました。
具体的な妨害行為
- 冥界に挑む者を欺く
- 冥界に送られた者が再生の道を得ることなく、永遠に閉じ込められる仕組みを作り上げた。
- 魂の再生を阻止
- 支配者たちはフンフンアフプーとヴクブ・フンアフプーの魂を奪い、再生の可能性を封じました。
- これにより、生命の循環が断絶され、混沌が増大する結果を招きました。
- 権力と恐怖の拡大
- 彼らの行動は、「死者が再び生き返ることはない」という恐怖を生み出し、シバルバが支配力を拡大する手段となりました。
なぜ支配者たちは循環を乱したのか?
冥界の支配者たちは、自らの権力と恐怖を絶対的なものにしたいという欲望を持っていました。
- 再生と循環があれば、人々は死を恐れず、冥界の力は弱まります。
- 逆に、再生の道を閉ざすことで、彼らは「終わりの象徴」としての支配力を高めようとしました。
戦いにゲーム性を重視する理由
マヤ神話におけるシバルバの支配者たちは、「ゲーム性のある戦い」を好む傾向が見られます。これは単なる戦いではなく、知恵や戦略を試す儀式的な試練として描かれています。
1) 儀式的な球技(ポクトック)
- マヤ神話における球技「ポクトック」は、戦いや試練の象徴として登場します。
- 球技は単なるスポーツではなく、天界、地上界、冥界をつなぐ象徴的な儀式でした。
- シバルバの支配者たちは、この球技を通じて訪問者を試し、自らの優位性を誇示します。
2) 試練と挑戦の精神
- 支配者たちは、試練やゲームを通じて、相手の知恵や勇気を試すことを好みます。
- しかし、これらの試練は公正なものではなく、罠や不公平なルールを仕込むことで自らの勝利を確実にします。
3) 権力の誇示
- シバルバの支配者たちは、自らの支配力を「ゲーム」で見せつけ、相手を屈服させることを目的としています。
- これは、「勝者が全てを支配する」という宇宙観の中で、彼らの地位を強調する手段でもあります。
まるで遊戯王の「闇のゲーム」ですね。
シバルバの支配者たちは神なのか!?
シバルバの支配者たちは、マヤ神話において神々と完全に同一視されるわけではなく、特別な役割を持つ半神的な存在とされています。彼らは冥界シバルバを支配する存在として、神々の一部でありながら、特定の側面では神と異なる特徴を持っています。
1. シバルバの支配者たちの性質
1) 神と人間の中間的な存在
- シバルバの支配者たちは、創造神や天界の神々とは異なり、完全なる「神」ではありません。
- 彼らは冥界という特定の領域を支配する存在であり、神々の秩序に挑む混沌の象徴として描かれます。
2) 特徴的な二面性
- 神的な力を持つ
- 彼らは呪術や試練を操り、訪問者を試し、恐怖で支配します。
- 死と闇を司る存在として、宇宙の循環における重要な役割を果たします。
- 人間的な弱さも持つ
- シバルバの支配者たちは全知全能ではなく、知恵や策略によって敗北することもあります。
- 双子たちの機転により打倒される姿は、神々とは異なる限界を示しています。
3) 地域的な存在
- シバルバの支配者たちは、冥界という特定の領域でのみ支配的な力を持ちます。
- 彼らは、天界や地上界には直接的な影響力を及ぼすことが少なく、その領域外では制約があります。
2. シバルバの支配者たちと他の神々の違い
特徴 | 天界の神々 | シバルバの支配者たち |
---|---|---|
役割 | 創造と秩序を司る | 混沌と試練、死を司る |
領域 | 天界(13層)や地上界 | 冥界(シバルバ) |
力 | 全知全能に近い | 特定の試練や呪術に限定される |
性格 | 調和と再生を重視 | 欺きや恐怖で支配 |
敗北の可能性 | 実質的にほぼ無敵 | 知恵や策略によって打倒される |
3. シバルバの支配者たちの本質
1) 宇宙の混沌の象徴
- シバルバの支配者たちは、「死」や「恐怖」を司る存在であり、宇宙の秩序を脅かす混沌の力を象徴します。
- しかし、この混沌も宇宙のバランスにおいて必要な要素とされています。
2) 試練を通じて秩序を導く存在
- 支配者たちは試練を課し、それを克服することで秩序を回復させる役割を担っています。
- 彼らの存在は、双子の勝利によって生命の循環を整える物語の一部として機能します。
3) 永続的な神ではない
- シバルバの支配者たちは、天界の神々と異なり、物語の中で敗北する運命を持っています。
- 彼らの打倒は、宇宙の秩序回復を象徴する重要な要素です。
4. シバルバの支配者たちの神話的意義
1) 死と再生の一部
- 支配者たちは、死という不可欠な側面を司り、再生のプロセスにおいて試練を提供する存在です。
2) 試練と成長
- 双子の物語では、シバルバの支配者たちは英雄たちを成長させる試練の提供者として描かれます。
3) バランスの役割
- 混沌と秩序のバランスを象徴する存在として、宇宙の調和の一部を担っています。
5. 結論
シバルバの支配者たちは、神々に近い力を持ちながらも、神そのものではなく、冥界の混沌を司る特別な存在です。彼らの存在意義は、宇宙の秩序を乱す試練を提供し、双子の冒険を通じて秩序が回復される物語を作り出すことにあります。