赤ずきんの変遷:恐怖から教訓、そして冒険へ…あなたの知る赤ずきんちゃんはどれ?
誰もが一度は聞いたことがあるおとぎ話、「赤ずきん」。赤いフードをかぶった可愛らしい少女が、大きな悪いオオカミと出会う物語です。しかし、このお話がどのようにして生まれ、形を変えながら私たちのもとに届いたかをご存じでしょうか?
「赤ずきん」は、もともとヨーロッパの村々で語り継がれた古い口承文学が起源です。時代や場所によって異なるバージョンが存在し、その内容も非常に多様でした。時には残酷で恐ろしいもの、時には教訓を含んだ寓話として形を変え、物語のテーマも変化してきました。そして、17世紀にはフランスのシャルル・ペローによって文書化され、19世紀にはグリム兄弟によってさらに広まりました。
この記事では、「赤ずきん」の元の原作、ペロー版、そしてグリム版という三つのバージョンを物語調で紹介します。
それぞれの物語がどのように異なり、どのような教訓やテーマを持っているのかを探りながら、時代ごとに物語がどのように進化してきたかを見ていきましょう。
3つの赤ずきんちゃん
さあ、時をさかのぼり、物語の旅に出発しましょう。最初に登場するのは、古い村々で語られていた、暗く残酷な「原作」の世界です。
(1) 元の原作の物語:暗く残酷な村の伝承
昔々、ある小さな村に、母親と暮らすひとりの少女がいました。ある日、母親はこう言います。
「おばあさんが病気だから、このパンとミルクを届けておいで。森を抜けるときは気をつけるのよ。」
少女は母親に言われた通り、森へ向かいました。深い森の中で、少女は一匹のオオカミに出会います。オオカミはにやりと笑いながら尋ねました。
「どこへ行くんだい、小さな娘さん?」
少女は無邪気に答えます。「おばあさんにご飯を届けに行くの。」
するとオオカミは言いました。
「じゃあ、君は小道を行きなさい。ぼくは大きな道を行くよ。」
しかし、それはオオカミの策略でした。オオカミは大きな道を猛スピードで駆け抜け、先回りしておばあさんの家へ向かったのです。
家に到着したオオカミは、おばあさんを一口で飲み込み、ベッドに潜り込みました。やがて少女が家に着き、扉を叩きます。
「おばあさん、私よ。中に入れて。」
「鍵は開いているよ、入っておいで。」
少女が家に入ると、そこには奇妙に変わったおばあさんがいました。
「おばあさん、どうしてそんなに大きな目をしているの?」
「お前をよく見るためさ。」
「おばあさん、どうしてそんなに大きな口をしているの?」
「お前を食べるためさ!」
オオカミは叫び、少女に飛びかかります。彼女もまたおばあさんと同じ運命を辿り、物語はここで終わるのです。まさかのバッドエンド・・・。
教訓も救いもないこの物語は、ただ「自然の恐ろしさ」と「人間の弱さ」を描いたものだったのです。
(2) ペロー版(1697年):貴族のサロンで語られた教訓的な物語
昔々、赤いフードをかぶった美しい少女がいました。その姿から「赤ずきん」と呼ばれていました。ある日、母親に言われ、おばあさんにパンとバターを届けることになりました。
森の中で、彼女は立派な毛並みのオオカミに出会います。オオカミは優しい声で話しかけました。
「どこへ行くんだい、赤ずきんちゃん?」
「おばあさんの家にパンとバターを届けに行くの。」少女は正直に答えます。
「それは素晴らしい。では競争しよう。君は小道を、ぼくは大きな道を行くよ。」
オオカミは再び先回りし、扉を叩きました。
「おばあさん、私よ、赤ずきんです。」
扉を開けたおばあさんは、一瞬でオオカミに飲み込まれました。オオカミはおばあさんの服を着てベッドに横たわり、赤ずきんを待ちます。
家に着いた赤ずきんは、すぐにおばあさんの異変に気づきました。
「おばあさん、どうしてそんなに大きな目をしているの?」
「お前をよく見るためさ。」
「おばあさん、どうしてそんなに大きな口をしているの?」
「お前を食べるためさ!」
オオカミは赤ずきんに飛びかかり、一瞬で飲み込んでしまいました。物語はここで終わりますが、最後にこうした教訓が添えられます。
「この話が教えているのは、若い娘たちは見知らぬ人と話してはいけないということだ。とくに甘い言葉をかけてくる者には注意すること。」
(3) グリム版(1812年):家族向けに改変された冒険譚
ある村に、赤い頭巾をかぶるのが大好きな少女がいました。人々は彼女を「赤ずきん」と呼んでいました。
ある日、母親は赤ずきんに言いました。「病気のおばあさんにパンとワインを届けておいで。でも、道草をしてはいけないよ。」
森の中で、彼女はオオカミに出会います。
「どこへ行くんだい、小さな赤ずきんちゃん?」
「おばあさんの家に行くの。」
オオカミは狡猾に言いました。「そうかい。じゃあ君は花を摘んでいったらどうだい?おばあさんもきっと喜ぶだろう。」
赤ずきんが花を摘んでいる間に、オオカミはおばあさんの家へ急ぎました。
おばあさんを飲み込んだオオカミはベッドに潜り込み、赤ずきんを待ちました。赤ずきんは家に入ると、異変に気づきます。
「おばあさん、どうしてそんなに大きな耳をしているの?」
「お前の声をよく聞くためさ。」
「おばあさん、どうしてそんなに大きな歯をしているの?」
「お前を食べるためさ!」
その瞬間、オオカミは赤ずきんに飛びかかります。しかし、家の近くを通りかかった猟師が叫び声を聞きつけました。
猟師は家に駆け込み、オオカミの腹をナイフで切り裂きます。
すると、赤ずきんとおばあさんが無事に飛び出してきました!
猟師はオオカミの腹に石を詰め、逃げられないようにします。目を覚ましたオオカミは重さに耐えきれず川に落ち、二度と戻ってきませんでした。
赤ずきんは言いました。「もう二度と道草をせず、お母さんの言うことをちゃんと守ります!」
生き延びた・・・!!(*‘∀‘)
ここからは物語の違いを比較してみましょう。
3種の赤ずきんちゃんの違い
(1) 元の原作 vs ペロー版
主な違い
- 雰囲気の違い:
元の原作は暗く、教訓よりも恐怖や残酷さが中心です。一方、ペロー版では貴族のサロン文化に合わせて物語が洗練され、道徳的な教訓が強調されています。- 原作:自然の恐ろしさや無力な人間を描写。
- ペロー版:少女が危険な人物(オオカミ)に近づくことの危険性を教える寓話。
- 赤いフードの登場:
原作には「赤ずきん」という象徴はなく、ペロー版で初めて「赤い頭巾」が登場します。この頭巾は、少女の無垢さや目立ちやすさ、そして誘惑にさらされやすい存在であることを象徴しています。 - 結末の違い:
原作もペロー版も救いのない結末ですが、ペロー版では教訓的な一文が最後に添えられています。「甘い言葉をかける見知らぬ人には気をつけるべし」という警告は、当時の若い女性へのメッセージを強く意識したものです。
(2) ペロー版 vs グリム版
主な違い
- 物語の明るさ:
ペロー版では悲劇的な結末が強調されますが、グリム版では猟師の登場により、赤ずきんとおばあさんが助かる救いのある展開に変わります。- ペロー版:現実の危険を強調し、教訓的に終わる。
- グリム版:希望と知恵が物語の中心となり、家族向けに改変。
- 教訓の方向性:
- ペロー版:「危険な誘惑に近づくべきではない」という教訓。特に若い女性向けのメッセージ。
- グリム版:「道草をせず、親の言いつけを守ること」が教訓となっています。子ども全般に向けた教育的な内容です。
- 狼の結末:
ペロー版では狼が勝者として終わりますが、グリム版では猟師によって倒されます。さらに、狼のお腹に石を詰められることで、視覚的にも痛快な結末が描かれています。
(3) 元の原作 vs グリム版
主な違い
- オオカミの役割:
原作ではオオカミは「自然の恐ろしさ」そのものとして描かれています。一方、グリム版では「悪に立ち向かう勇気」を象徴する敵役としての役割が強調されています。 - 家族の絆と救済:
原作には家族や助け合いの要素がほとんどなく、グリム版では赤ずきんとおばあさんが猟師に救われることで「助け合い」の重要性が示されます。 - 物語の対象者:
- 原作:大人向けの物語で、恐怖の共有が中心。
- グリム版:子ども向けの教訓的な物語で、教育を目的とした内容。
(4) 時代背景と文化的な影響
元の原作
- 村社会における口承文学で、森や野生動物といった「自然の恐怖」を中心にしています。これは、当時の人々が実際に森を恐れていたことと関連しています。
ペロー版
- 貴族のサロン文化の中で、洗練された文学として発展しました。特に、若い女性に向けた道徳的な教訓を込めた物語として、社会的メッセージが強調されています。
グリム版
- 19世紀の家族向け童話の流行を反映しています。グリム兄弟は物語を通じて子どもに教訓を伝えることを目的とし、暴力的な要素を緩和しつつも物語の冒険性を高めました。
このようにみてみると、同じ話でも時代に合わせて大きく異なっていますね。
物語の進化が教えること
「赤ずきん」という物語は、時代と共にその形を変え、私たちの心にさまざまなメッセージを伝え続けています。
元の原作は「自然の恐ろしさ」を語り、ペロー版は「人間社会の誘惑への警告」、そしてグリム版は「勇気と助け合いの大切さ」を伝えています。
このように、同じ物語であっても、語り手や時代背景によってそのテーマやメッセージが大きく変化するのは興味深いですね。
現代における「赤ずきん」を考えると、どんなテーマが必要になるでしょうか?
例えば、SNSやインターネット上での見知らぬ人との接触という現代の危険性を反映させることもできるかもしれません。
また、少女の自立や自分の力で困難を乗り越える展開を描けば、より共感を呼ぶ新しい「赤ずきん」となるでしょう。
自分なりの「赤ずきん」の物語を想像してみてください。
あなたなら、赤ずきんとオオカミの関係をどのように描きますか?
教訓をどんな形で伝えますか?
強い赤ずきんなんかも・・・いいですね(*‘∀‘)