マヤ神話⑤:フンアフプーとイシュバランケの冒険:マヤ神話が語る死と再生の物語
前回のあらすじ
昔、地上界ではフンフンアフプーとヴクブ・フンアフプーという兄弟が暮らしていました。彼らは球技(ポクトック)に優れ、その名声は冥界シバルバにまで響き渡っていました。しかし、冥界の支配者であるフンカメとヴクブカメは、この兄弟の栄光を快く思いませんでした。
「彼らをこちらへ呼び寄せ、屈辱を与えてやろう」と支配者たちは考えました。こうして兄弟はシバルバに招かれましたが、そこには数々の罠が待ち受けていました。兄弟は支配者たちの罠にはまり、命を落としました。そして、フンフンアフプーの頭蓋骨だけが残され、それは冥界の木の上に飾られました。
時が経ち、冥界の娘イシュキックがその木の下を通りかかったとき、フンフンアフプーの頭蓋骨が言葉を発しました。「私の口に手を差し出せ」。恐れながらも彼女が従うと、命が彼女に宿りました。こうして双子の英雄、フンアフプーとイシュバランケが生まれたのです。
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英雄となる双子、フンアフプーとイシュバランケの冒険
兄たちとの確執
双子は母イシュキックとともに祖母の家で育ちました。しかし、その家には双子の兄であるホナタフとホナツも暮らしていました。ホナタフとホナツは双子の優れた才能に嫉妬し、彼らを罠にはめようとします。
「ここで彼らを懲らしめてやろう」と兄たちは策略を仕掛けますが、逆に双子はその罠を見抜き、兄たちを猿の姿に変えてしまいました。こうして猿の起源が生まれたのです。
父の復讐を誓い冥界シバルバへ
フンアフプーとイシュバランケは、自分たちの父フンフンアフプーがどのようにして命を落としたのかを知りました。「父の無念を晴らさなければならない」。双子は復讐を果たすため、冥界シバルバへの旅に出ることを決意します。
世界を周り、シバルバへの入り口を見つけた双子は、シバルバの支配者たちに挑みました。
シバルバの試練
シバルバに到着した双子を待っていたのは、支配者たちが仕掛けた数々の試練でした。
暗闇の家
最初の試練は「暗闇の家」。松明と葉巻を一晩中燃やし続けなければならないという不可能な課題を出されます。
しかし、双子は知恵を使い、松明と葉巻の灰を形だけ整えたことで、試練を切り抜けました。
剣の家
次の試練は「剣の家」。剣で満たされた家で切り刻まれる危機が待ち受けていましたが、双子は剣に言葉をかけて制し、無傷でこの試練を乗り越えます。
炎の家
「炎の家」では燃え盛る炎に包まれる課題が与えられましたが、冷静な行動で火を鎮め、無事に試練を切り抜けました。
ジャガーの家
「ジャガーの家」では、恐ろしいジャガーの群れに囲まれます。双子はジャガーに供え物を与え、その危機を回避しました。
コウモリの家
最後の試練は「コウモリの家」でした。ここで双子は眠る間にコウモリの攻撃を受け、イシュバランケが一時的に傷を負いましたが、それでもこの試練を乗り越えます。
父達が罠に落ちた球技での決戦
数々の罠や試練を乗り越えた二人はついに最終決戦へと赴きます!
フンアフプーとイシュバランケは、冥界シバルバの支配者たちとの対決として**ポクトック(球技)**を挑まれました。この試合は、単なるスポーツの試合ではなく、策略と命を賭けた最終的な試練でした。
試合はシバルバの暗く冷たい球技場で行われました。この球技場は、冥界特有の重々しい雰囲気に包まれ、石の壁には光るマヤ文字のような紋様が刻まれていました。球技場の上空には霧が漂い、観客としてシバルバの住人たちが影のように静かに見守っていました。
支配者たちは双子を完全に打ち負かすため、呪いのボールを用意しました。このボールはただの道具ではなく、邪悪な魔法がかけられた危険なものでした。
呪いのボールの仕掛け
試合の開始とともに、支配者たちは呪いのボールを放ちました。このボールは通常のものよりも重く、動きが不規則で、場合によっては攻撃のように使われることもありました。
- 第一の仕掛け:ボールにはトゲが仕込まれ、触れるだけで双子を傷つけるよう設計されていました。
- 第二の仕掛け:ボールの動きは不規則で、思わぬ方向に飛び跳ねるため、回避するのが困難でした。
- 第三の仕掛け:ボールが接触すると爆発する仕掛けが施されており、双子を消し去る狙いがありました。
双子の知恵と策略
双子は支配者たちの罠に気づき、この呪いのボールを知恵で回避しながら試合を優位に進めました。
- 冷静な観察
- 双子はボールの動きをじっくりと観察し、その不規則な軌道を見極めました。
- 支配者たちが仕掛けたトラップを察知し、それを逆手に取る方法を考えます。
- チームワーク
- フンアフプーとイシュバランケは、抜群のチームワークで試合に挑みます。
- 呪いのボールが不規則な方向に飛ぶとき、片方が即座にカバーに回ることで、支配者たちの思惑を外しました。
- 反撃の知恵
- 双子はボールを直接扱うのではなく、特別に用意した道具や間接的な方法を使って試合を進めました。
- 呪いの効果が届かないよう、ボールを壁や地面に意図的に跳ね返させながら試合を続けます。
支配者たちの苛立ち
支配者たちは、自らの策略がことごとく失敗するのを見て苛立ちました。
「呪いのボールでも奴らを倒せないのか!」
と叫びながら、新たな罠を用意しようとしますが、試合は次第に双子のペースに引き込まれます。
- 双子の戦略:ボールを扱うとき、呪いが自分たちに及ばないよう、細心の注意を払います。
- 支配者たちの動揺:双子の冷静な対応に、支配者たちはますます焦り、ミスを重ねていきます。
勝利の確信を得たが・・・
試合の後半、双子は呪いのボールを巧みに操り、支配者たちを圧倒しました。支配者たちは焦りのあまり自らの戦略を見失い、双子の優位は揺るぎないものとなりました。
双子のプレイは試合そのものを超えて、支配者たちの傲慢さを打ち砕く象徴的なものとなりました。観客として集まったシバルバの住人たちも、この試合を通じて双子の英雄性を目の当たりにします。
この試合は、単なる勝利だけではなく、知恵と勇気、そして冷静な判断が勝利をもたらすことを教えています。また、支配者たちにとっては、この試合が彼らの没落の始まりを告げるものでもありました。
双子の最終試練:死と再生の奇跡
試合は間違いなく双子の勝利でした。だがしかし・・・。
シバルバの支配者たちの策略
冥界シバルバの支配者たち、フンカメとヴクブカメは、球技での敗北を許すことなく、双子を完全に打ち負かすための新たな罠を仕掛けました。
「自らを生け贄として捧げよ。これが真に我らを敬う証だ」
と、支配者たちは冷笑を浮かべて言いました。これは、双子を完全に消し去るための罠でした。もはや試合での敗北を認められない最後のあがきのようです。
しかし!双子はこの命令に逆らうどころか、静かにうなずき、受け入れたのです。
自らの死を受け入れる双子
フンアフプーとイシュバランケは、自らの運命を決したかのように、生け贄の儀式に進みました。彼らは支配者たちの前で静かに横たわり、その体は支配者たちの命令によって切り刻まれ、川へと投げ捨てられました。
シバルバの住人たちはこれを見て歓喜し、支配者たちは
「これで双子の脅威は完全に消えた!父と同じ末路をたどるといい!!」
と満足げに笑い合いました。
しかし、この瞬間、支配者たちは自らの破滅を招いていることに気づいていませんでした。
奇跡の復活
いっぽう抹殺され川に捨てられた双子でしたが、これは双子の作戦でした。
川に沈められた双子の体は、川の流れとともに再び一つに戻り、彼らは見事に蘇りました。まさに奇跡の技です。
そう、彼らはわざと処刑されたのです。完全に抹殺できたと、支配者たちが慢心することを狙ったのでした。
復活した双子は自らの姿を変え、冥界の芸人として新たな役を演じる準備を整えました。
シバルバでのパフォーマンス
双子は芸人や踊り手として、シバルバ中を巡りながら、住人たちを魅了しました。その奇抜で美しい踊りや演技、さらには「自らを殺し、再び蘇る」という驚異のパフォーマンスで、冥界の住人たちは双子に夢中になりました。
この噂は支配者たちの耳にも届きました。
「そんな素晴らしい芸人がいるのならば、我々の宮殿でパフォーマンスを見せてもらおうではないか」
と、支配者たちは興味津々で彼らを宮殿に招き入れました。もちろん自分たちが葬り去った「あの双子」だとは気が付いていません。
欺きの策略
双子は支配者たちの前で、再び自らを殺して蘇るパフォーマンスを披露しました。
支配者たちはその神業に感銘を受け、
「我々も同じことをしてみたい!お前たちの手で我々を蘇らせよ!」と命じました。
双子は冷静に答えました。
「もちろんです。ただし、完全に準備が整わなければ成功しません。」
支配者たちはこれを信じ、横たわりました。
双子は支配者たちを丁寧に殺害しましたが、蘇らせるふりをして何もしませんでした。
そう、この術の工程は死と復活。死で止めてしまえば、流石のシバルバの支配者でも復活はできません。
こうして、フンカメとヴクブカメは完全に滅び、シバルバの権力構造は崩壊しました!!
勝利と昇天
双子は支配者たちを欺き打ち負かした後、冥界の混沌を取り除き、宇宙の秩序を取り戻しました。
そう、シバルバで止まっていた循環を正常な状態に戻したのです!
彼らの父、フンフンアフプーの魂は解放され、冥界で乱れていた循環が再び整えられました。
その後、双子は冥界を離れ、天に昇りました。
フンアフプーは太陽に、イシュバランケは月になり、永遠に宇宙を照らし続けました。
双子の活躍により、混沌は力の循環を取り戻し、正常な状態になっていきました。このことで、太陽と月の天の運用による時間の秩序が生まれました。
そして改めて神々が地上世界を創造するための基盤が出来上がったのです。
この後天上界の神々は「トウモロコシ」から人を作り出しました。これが今の人間となります。
フンアフプーとイシュバランケの物語は、マヤ神話の核心であり、私たちに生命と宇宙の調和の大切さを教えてくれます。この物語は、マヤ文明がいかに深い洞察を持って宇宙を捉えていたかを物語っています。そしてその教訓は、現代社会にも普遍的なメッセージとして響き続けています。