マヤ神話⑥:猿の兄弟:ホナタフとホナツの物語:フンアフプー達が猿に変えた兄達の後日談
マヤ神話には、中心的な役割をした英雄の双子、フンアフプーとイシュバランケがいます。双子の活躍はコチラから。
この話はその兄達の物語。時は双子が冥界シバルバに挑むよりも少し前の物語です。
猿の兄弟:ホナタフとホナツの物語
兄たちの策略
フンアフプーとイシュバランケは幼いころから非凡な才能を持っていました。彼らの知恵や機知、さらには驚くべき能力は、周囲の人々を魅了しました。しかし、兄であるホナタフとホナツにとって、それは心穏やかではないものでした。
「何故あいつらばかりが注目を集めるんだ!」 「私たちのほうが先に生まれたのに!」
兄たちは双子を疎ましく思い、彼らを陥れることでその才能を抑え込もうとしました。そして、ある日、策略を仕掛けることに決めたのです。
策略の内容
兄たちは、双子に難しい仕事を押し付けました。それは、周囲の山々に散らばる大量のトウモロコシの穂をすべて集めて戻ってくるというものでした。つまり嫌がらせですね。
兄たちは心の中でこう考えていました。
「こんな量のトウモロコシを一日で集められるわけがない。奴らは失敗し、私たちの方が自分たちよりも上であると認めるだろう。」
しかし、双子はその仕事を簡単に終えてしまいます。彼らは自然界の力を操る方法を知っており、鳥や風を利用してトウモロコシを集めたのです。
兄たちは驚きましたが、あきらめるどころか次の策略を企てました。今度は、双子を森の奥深くに連れ出し、危険な動物たちに襲わせようと考えました。
双子の知恵と策略の逆転
森の中で兄たちは言いました。
「ここに住む恐ろしいジャガーをお前たちに見せてやる。それを鎮めることができれば、お前たちの勝ちだ。」
しかし、双子は兄たちの真意を見抜いていました。彼らは森の中で、ジャガーの足跡を見つけると、それに向かって静かに言葉をかけました。
「私たちは争うためにここに来たのではありません。平和のために力を貸してください。」
すると、ジャガーは双子に従い、兄たちには見向きもしなくなりました。逆に、兄たちは自分たちが怖がらせようとしたジャガーに怯え、逃げ出してしまったのです。
猿への変身
兄たちはついに追い詰められました。双子の知恵と能力に敵わないことを悟りながらも、その嫉妬心は消えることがありませんでした。
「どうしてこんなことになるんだ!」 「私たちこそがこの家の主人のはずだ!」
その瞬間、双子は静かに言いました。
「兄上たち、あなたたちの心には嫉妬が渦巻いています。その嫉妬は人間としての本質を失わせるものです。私たちに害をなそうとする限り、その行いは天に裁かれます。」
双子の言葉が終わると同時に、兄たちの姿は変わり始めました。手足は長くなり、背中は丸まり、顔には毛が生え始めました。彼らは猿の姿へと変わっていったのです。
新たな役割の獲得
猿に変わったホナタフとホナツは、最初はその姿を嘆き、森の奥深くで人目を避けて暮らしていました。かつての自分たちの人間としての誇りは失われ、孤独と羞恥に打ちひしがれていたのです。しかし、ある日、彼らは自分たちの新しい体に秘められた力に気づき始めます。
芸術の起源
ある静かな夜、ホナタフが無意識に木の枝を叩いてリズムを奏でました。その音は森全体に響き渡り、鳥たちがそのリズムに合わせて鳴き始め、木々の葉が風に揺れる音と調和しました。それを見たホナツがこう言いました。
「これは…音楽だ。私たちにはまだ何かを生み出す力がある。」
それ以来、彼らは自然界の音を真似たり、工夫して新たな音を作り出したりするようになりました。風、雨、動物たちの声、そして自分たちの手足を使って、彼らはリズムとメロディを作り上げていきました。
踊りと表現の発見
音楽だけではなく、彼らの新しい身体の柔軟性もまた新たな芸術を生み出す力を持っていました。ホナタフとホナツは木々の間を軽やかに飛び回り、その動きがまるで踊りのように美しくなることに気づきます。
- 手足の自由な動き:猿の身体の特徴が、踊りという表現を可能にしました。
- 自然との一体感:彼らの踊りは森全体を巻き込み、生命の祝祭のように感じられました。
彼らは踊りを通じて、自分たちが自然界の一部であり、かつ新しい役割を与えられたことを理解します。
芸術の守護者としての役割
やがて、ホナタフとホナツは人々に音楽と踊りを伝えていきました。彼らの音楽と踊りは、ただ楽しみを与えるだけでなく、神聖な儀式や祭りに深い意味を持つものとなっていきます。
- 音楽の神聖さ:ホナタフとホナツのリズムとメロディは、神々への祈りや感謝を表現する手段となりました。
- 踊りの力:彼らの踊りは、人々が自然界や神々と一体になる助けとなりました。
人々は彼らを芸術と音楽の守護者として崇め、猿が神聖な存在として扱われるようになりました。猿の姿はマヤ文化において、芸術や創造性を象徴するものとなり、儀式や壁画、彫刻にその姿が描かれるようになります。
物語の教訓:新たな役割の発見
ホナタフとホナツは、人間としての姿を失いましたが、猿として芸術と音楽を生み出す新たな役割を得ました。この物語は、失敗や罰が必ずしも終わりではなく、新たな可能性への扉となることを教えてくれます。
- 自然界との調和:彼らの芸術は自然と密接に結びつき、人間と自然の調和を象徴するものとなりました。
- 創造性の力:嫉妬や傲慢による挫折が、創造力を発揮する新たな道を開いたのです。