ヴァンパイア伝承を徹底解説|世界の吸血鬼伝説とその起源
世界各地のヴァンパイア伝承を探る
ヴァンパイアといえば、多くの人が映画や小説で描かれる魅惑的で恐ろしい存在を思い浮かべるでしょう。しかし、その起源をたどると、世界各地に古くから伝わる民間伝承に行き着きます。今回は、創作ではなく実際のヴァンパイア伝承に焦点を当て、その地域ごとの特徴や背景を探っていきます。
東ヨーロッパのヴァンパイア伝承
ヴァンパイア伝承の中心地とも言える東ヨーロッパ。この地域では、死者が墓から蘇り、生者の血を吸うという信仰が広く存在しました。墓から蘇るという点はゾンビに通じるものがありますね。
ストリゴイ(Strigoi) – ルーマニア
- 特徴: 生者や動物の血を吸い、夜間に活動する。
- 種類:
- Strigoi Vii: 生きている人間が悪霊に取り憑かれたもの。
- Strigoi Mort: 死後に蘇る吸血鬼。
- 対策:
- 遺体の胸に鉄杭を打ち込む。
- 墓を掘り返し、遺体を焼却する。
アップイール(Upir) – スラヴ地域
- 特徴: 生者の血を吸うほか、家畜にも危害を加える。
- 信仰の背景:
- 適切な埋葬を受けなかった者がアップイールになると信じられていました。
ギリシャのヴリコラカス(Vrykolakas)
ギリシャでは、ヴリコラカスという名前で吸血鬼に似た存在が語られていました。
- 特徴:
- 墓から蘇り、村人に病気や恐怖を広める。
- 血を吸うというよりも、呪いや疫病をもたらす存在として描かれる。
- 原因:
- 教会の儀式を受けずに埋葬された死者。
- 生前に重い罪を犯した者。
- 対策:
- 鉄杭で遺体を固定。
- 遺体を焼き尽くす。
対策は炎で遺体を焼くこと。これは先ほどの、ストリゴイと同じですね。
アイルランドのアバートラック(Abhartach)
アイルランドにも、ヴァンパイアのような存在である「アバートラック」という伝説があります。
- 伝説:
- 邪悪な王が死後に蘇り、人々の血を吸い続けた。
- 対策:
- 遺体を逆さまに埋葬し、大石で封印する。
簡単にアバートラックの伝説を紹介します。この伝説は、アイルランドのデリー地方に伝わる話が元になっています。
アバートラックの伝説
- 邪悪な支配者
アバートラックは、小柄ながらも恐ろしい力を持つ王でした。彼は領地の住民に対して非常に暴虐的で、不安や恐怖を広めていました。 - 死と復活
領民の訴えにより、彼を倒すために近隣の戦士が呼ばれました。その戦士はアバートラックを殺害し、彼を埋葬しました。しかし、彼は墓から蘇り、村人たちの血を要求する存在になりました。 - 繰り返される復活
アバートラックは何度も倒され、埋葬されるたびに墓から蘇りました。この繰り返しに人々は恐れおののき、彼を完全に封じる方法を探しました。 - 最終的な封印
地元のドルイド(ケルトの祭司)の助言により、次の方法でアバートラックを封印しました:- 彼を逆さまに埋葬する。墓の上に大きな石ドルメンを置く。
トゲのある植物ブラックソーンで墓を囲む。
この方法により、彼は再び蘇ることができなくなったとされています。
- 彼を逆さまに埋葬する。墓の上に大きな石ドルメンを置く。
※彼は血を飲む存在として描かれており、この要素が後の吸血鬼伝承や文学作品(例:ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』)に影響を与えた可能性が指摘されています。
中国のジャンシー(僵尸)
アジアにも吸血鬼のような存在が伝えられています。中国では「ジャンシー」(僵尸)がそれに該当します。日本ではキョンシーの名前で親しまれていますね。
- 特徴:
- 跳び跳ねる死者で、生者の気(エネルギー)を吸い取る。
- 夜間に活動し、日光を嫌う。
- 対策:
- 呪符を額に貼る。
- 鶏の血を使って退治する。
ヴァンパイア退治の方法
地域ごとに異なるヴァンパイア退治の方法ですが、多くに共通するのは「死者の動きを封じる」ことです。
- 杭を心臓に打ち込む: 東ヨーロッパ全般で見られる対策。
- 遺体を焼却する: ギリシャやスラヴ地域で行われた方法。
- ニンニクや聖水: ヴァンパイアを近寄らせないためのお守り。
- 日光にあてると焼ける
単純な物理攻撃は効果が薄い印象ですね。一撃必殺で倒す必要がありそうです。でなければすぐに再生してしまうイメージがありますね。
ヴァンパイア伝承の共通点と背景
世界各地のヴァンパイア伝承には、いくつかの共通点があります。
- 死者の復活:
- 死体が腐敗しない場合、不吉な存在と見なされることが多かった。
- 血やエネルギーの吸収:
- 血液や気を奪う行為が人々に恐怖を与えた。
- 夜間の活動:
- 日光を嫌うという点で、多くの地域の伝承が一致している。
これらの伝承は、疫病や埋葬の不備など、当時の社会的・文化的背景から生まれたものと考えられます。
まとめ
これらの伝承は地域ごとに異なりますが、多くが「死者が蘇る恐怖」「死体の腐敗にまつわる不思議さ」「疫病の流行」などが背景にあります。創作とは異なり、民間信仰として実際に信じられていたことが特徴です。
また、多少の違いはあれど、国や地域が違っても倒し方や封じ方が似ていたり、多くの共通点がある事も魅力ですね。
太陽に弱いといった特徴も現代の作品に影響を与えています。JOJOの奇妙な冒険や鬼滅の刃もそうですよね。
実は、一部の病気や症状が歴史的にヴァンパイア伝説の背景に影響を与えたと考えられています。
ほぇ!?そうなの?怖いけど聞きたい・・・。
追記:ヴァンパイア伝説のきっかけとなった病?(諸説・仮説あり)
1. ポルフィリン症(Porphyria)
- 概要: ポルフィリン症は、ヘム(赤血球内のヘモグロビンに含まれる色素)の生成に異常が生じる遺伝性の病気です。
- 吸血鬼伝説との関連:
- 光過敏症: 患者は日光に対して非常に敏感で、皮膚が火傷のような状態になることがあります。これが「吸血鬼が日光を嫌う」という伝説に結びついた可能性があります。
- 蒼白な肌: 血液の異常が顔色を青白く見せ、吸血鬼の外見と似ていると考えられました。
- 歯茎の後退: 症状の一つとして歯茎が後退し、犬歯が目立つことがあります。これが吸血鬼の牙に見えた可能性があります。
2. 狂犬病(Rabies)
- 概要: 狂犬病は、感染者が動物の唾液を介して発症するウイルス性の病気です。
- 吸血鬼伝説との関連:
- 過敏性: 狂犬病患者は光、音、匂いに対して過敏になることがあります。これが吸血鬼の「光を避ける」性質と結びついたかもしれません。
- 攻撃的行動: 狂犬病は精神的な変化を引き起こし、攻撃的な行動や不安定な精神状態をもたらすことがあります。
- 噛みつき行動: 感染が進行すると、狂犬病患者は時折噛む動作をすることがあります。この行動が吸血鬼の「血を吸う」伝説と結びついたと考えられます。
狂犬病は狼男の伝説の元になったともいわれていますね。
3. 貧血(Anemia)
- 概要: 貧血は、体内の赤血球やヘモグロビンの不足による症状です。
- 吸血鬼伝説との関連:
- 血液への渇望: 貧血患者はエネルギー不足や倦怠感を感じることが多く、これが「血液が必要だ」という吸血鬼のイメージと関連付けられた可能性があります。
4. ペラグラ(Pellagra)
- 概要: ビタミンB3(ナイアシン)の欠乏により発生する病気です。
- 吸血鬼伝説との関連:
- 光過敏症: 日光に当たると皮膚が赤くただれたり、酷い炎症を引き起こすことがあります。
- 錯乱や妄想: ペラグラは神経系にも影響を及ぼし、妄想や幻覚を引き起こすことがあり、吸血鬼にまつわる奇妙な行動の描写に関連するかもしれません。
5. 結核(Tuberculosis)
- 概要: 結核は、主に肺に影響を与える感染症です。
- 吸血鬼伝説との関連:
- 衰弱した外見: 結核患者は急激に体力を失い、痩せ衰えた外見になることがあります。これは「死から蘇った存在」という吸血鬼像に似ているかもしれません。
- 連鎖的な発症: 結核は家族内で広がりやすい特性があり、「一人の死者が家族全体を襲う」という吸血鬼伝説の元になった可能性があります。
これらの病気や症状が、特定の時代や地域で理解されないまま恐怖の対象となり、吸血鬼伝説に結びついたと考えられます。医学が未発達だった時代には、病気の原因を説明するために超自然的な物語が生まれることは珍しくありません。