日本に伝わる土の妖怪・化け物6選|伝承に基づく大地の精霊たち
日本の伝承には、土や大地に関わる妖怪・妖(あやかし)・化け物が数多く登場します。
彼らは農業と深い関係を持ち、土地を守護する存在であったり、大地から禍をもたらす者であったりします。
ここでは、確かな伝承が残る「土の力を持つ存在」を紹介し、関連するエピソードも交えて解説します。
1. 泥田坊(どろたぼう)

出典:柳田國男『妖怪談義』、鳥山石燕『画図百鬼夜行』
特徴:
- 泥まみれの老人の姿をしており、田んぼの泥の中から現れる。
- 「田を返せ!」と叫びながら、田畑を荒らす者を呪う。
エピソード:
ある村で、先祖代々の田んぼを守ってきた老人がいた。しかし、彼の死後、息子が田を手放してしまった。すると、その夜から田の中から泥まみれの男が現れ、「田を返せ!」と叫び続けるようになった。村人たちは恐れて田に近づかなくなり、その田んぼは荒れ果てたという。
2. ツチグモ(土蜘蛛)

出典:『日本書紀』『平家物語』『能・土蜘』
特徴:
- 地底に住む巨大な蜘蛛の妖怪。
- 朝廷に従わなかった古代の土着勢力を妖怪化したものともされる。
- 地の底から現れ、敵を襲う。
エピソード:
平安時代、源頼光が病に倒れた際、夜な夜な屋敷に現れる怪しい影に悩まされた。ある夜、頼光が妖しげな影に刀を振るうと、血の跡が外へと続いていた。血の跡をたどると、洞窟の奥に巨大な蜘蛛の妖怪・土蜘蛛がいた。頼光とその家臣が戦い、ついにこれを討ち取ると、頼光の病も不思議と治ったという。
※本来であれば政敵を化け物とする文化の被害者たちですが、伝承ということでご紹介しました。
3. 野槌(のづち)

出典:鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』、江戸時代の民間伝承
特徴:
- 山の中や田畑に潜む蛇のような妖怪。
- 突然現れ、行く手を阻むが、逃げると追ってくる。
- 大地そのものの霊とされることもある。
エピソード:
ある旅人が山道を歩いていると、突然、巨大な蛇のような生き物が道を塞いでいた。旅人が恐れて道を引き返そうとすると、それが追いかけてきた。恐怖のあまり旅人は気を失ったが、目を覚ますと妖怪の姿は消え、土の中に不気味な穴が残っていたという。
4. 野鉄砲(のてっぽう)

出典:江戸時代の伝承(近江地方)
特徴:
- 田んぼや土手の中に潜む目に見えない妖怪。
- 夜道を歩くと突然、土の中から弾丸のような勢いで何かが飛び出し、人を転ばせる。
エピソード:
ある農夫が夜道を歩いていると、突然、土の中から何かが飛び出し、農夫は転んでしまった。驚いて起き上がると、何もいなかった。村人たちは「それは野鉄砲の仕業だ」と言い伝えており、夜に田んぼの近くを歩くことを避けるようになった。
5. 砂かけばばあ(砂かけ婆)

出典:『日本妖怪大事典』、民間伝承(特に近畿地方)
特徴:
- 夜道や川辺、山道などに現れ、突然砂をかける老女の妖怪。
- 砂をかけるだけで特に害を及ぼさないが、突然現れるため人々を驚かせる。
- 実際には姿が見えず、音だけが聞こえることもある。
- 特に「橋の下」「暗がり」「川辺」に出没するという伝承が多い。
エピソード:
1. 「夜道の砂かけばばあ」
ある男が夜道を歩いていると、突然、顔に砂がかかった。
驚いてあたりを見回しても、誰もいない。
仕方なく家に戻ると、着物の裾や髪の毛まで砂まみれになっていた。
翌日、村の年寄りに話すと、「それは砂かけばばあの仕業じゃ。目に見えぬが、おぬしを驚かせたのだ」と言われた。
2. 「橋の下の婆」
関西地方では、橋の下に住む老女の妖怪として伝えられることもある。
夜、橋の近くを通ると、上からザザーッと砂が降ってくる。
見上げても誰もおらず、不思議に思っていると、また砂がかかる。
「これは妖怪の仕業かもしれん」と村人たちは語り合い、以後、夜に橋の下を通る者はいなくなった。
6. ぬりかべ(塗壁)

出典:柳田國男『妖怪談義』、鳥山石燕『画図百鬼夜行』、福岡県の伝承
特徴:
- 目に見えない巨大な壁のような存在が道を塞ぎ、進むことを妨げる。
- 壁のように見えることもあれば、まったく見えずに進めなくなることもある。
- 後ずさると消える、あるいは足元を叩くと消えるという言い伝えがある。
- 九州地方(特に福岡県)の伝承が有名だが、他の地域にも似た話が伝わっている。
エピソード:
ある男が山道を歩いていると、突然進めなくなった。
目の前には何もないのに、まるで巨大な壁にぶつかったかのように足が止まる。
不思議に思いながらも、村の老人の言いつけを思い出し、棒で足元を叩いた。
すると、突然身体の力が抜け、前へ進めるようになった。
振り返ると何もなく、男はそのまま村へと帰ったという。
まとめ
日本の伝承には、土や大地の力と結びついた妖怪が数多く存在します。これらの妖怪は、大地を司る守護者であると同時に、人間にとって脅威となる存在でもあります。
自然崇拝の文化が生んだ伝承といわれますが、実際に会ったことがあるという事例は現在でも報告されています。
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