白雪姫の原作あらすじと嫉妬の物語|ロシア版との違いも解説
意外と内容がうっすらとしか思い出せない童話ってありますよね。今回は白雪姫をご紹介します。
白雪姫──美しさと嫉妬に揺れる鏡の物語
「鏡よ、鏡。この世でいちばん美しいのは、だあれ?」
その問いに、鏡はこう答えました。
「それはあなたではありません。白雪姫です。」
この瞬間、静かだった心が狂いはじめます。
――これは、美しい娘と、かつて美しかった女の、鏡をめぐる物語。
第一章:冬のはじまりと、少女の誕生
むかしむかし、冬のある日。
王妃は雪の降る城の窓辺で、刺繍をしておりました。窓の枠は黒檀(こくたん)、雪は白く、指先に針が刺さり、赤い血がひとしずく落ちます。
「白い雪のように肌が白く、黒檀のように髪が黒く、血のように唇の赤い子がほしい…」

その願いは叶い、王妃は女の子を授かります。名は白雪姫。
けれど、王妃はまもなく世を去り、王は新たな妃を迎えました。
第二章:鏡が映す真実と、女の嫉妬
新しい王妃は、目を見張るような美しさの持ち主。
しかしそれ以上に、自らの美に執着し、「真実を語る魔法の鏡」に毎日のように問いかけていました。
「鏡よ、鏡。この世でいちばん美しいのは、だあれ?」
鏡はこう答えます。
「女王さまが、この世でいちばん美しい。」
けれど白雪姫が七つになるころ、鏡の答えが変わりました。

「白雪姫です。あなたより、ずっと美しい。」
その瞬間、女王の心は凍りつきます。
冷たい嫉妬の刃が、音もなく少女に向けられたのでした。
第三章:森のなかの逃亡と、七人の小人
王妃は、狩人に命じました。
「白雪姫を森へ連れて行き、殺しなさい。そして、その証として心臓を持ち帰るのです。」
命に背けば自らの命が危うい。狩人は白雪姫を森の奥へと連れ出します。
けれど、少女の無垢な瞳に胸を打たれ、狩人は涙をこぼしました。
「逃げなさい、白雪姫!このまま森の奥へ、どこまでも遠く!」
狩人は白雪姫を殺さず、死んだことにして助けたのでした。
白雪姫は森をさまよい、やがて不思議な小さな家を見つけます。
扉を開けると、すべてが小さく、可愛らしく整っておりました。
小さな椅子が七つ、ベッドが七つ、皿も七つ。

空腹と疲れに耐えかね、白雪姫はパンを少しとスープを飲み、ベッドのひとつで眠りにつきました。
夜になると、家の主である七人の小人たちが戻ってきます。
彼らは驚きながらも事情を聞き、こう言いました。
「よいとも、ここにいていい。ただし、家の掃除と料理をしておくれ。」
こうして白雪姫は森のなかで、静かな日々を過ごし始めたのです。
第四章:三度の誘惑と、深紅のリンゴ
けれど、王妃の嫉妬は、森の深さにも届きました。
魔法の鏡に問いかけるたび、鏡は真実を返します。
「森の奥にいる白雪姫こそが、世界でいちばん美しい。」
怒りに震える王妃は、自ら姿を変え、老婆に化けて白雪姫のもとへ。
そして、三度にわたる暗殺を企てます。
一度目:絞め紐
美しい編み上げ紐を売るふりをして、白雪姫の胴をぎゅうぎゅうに締め上げました。
白雪姫はその場で気を失いますが、小人たちに助けられました。
二度目:毒の櫛
今度は毒の仕込まれた櫛。白雪姫の髪に刺した瞬間、少女はまたも倒れます。
けれど再び小人たちに救われます。
三度目:毒リンゴ

三度目、王妃は真っ赤なリンゴを用意しました。
表の片面には毒を仕込み、もう片面には何も施さず。
「あんたが心配なら、ほら。わたしがこの面を食べるから、あんたはこっち。」
白雪姫は警戒しながらも、誘惑に抗えず、ひとくちかじります。
その瞬間。
少女の指から、リンゴが滑り落ちました。
紅い果実とともに、彼女の身体もまた、大地に崩れ落ちたのです。
第五章:目覚めと復讐
七人の小人たちは深い悲しみにくれました。
けれど、白雪姫の美しさは、死してなお失われなかったのです。
「この娘を土に還すには、あまりにも美しすぎる……」

彼らはガラスの棺を作り、白雪姫をそっと寝かせ、森の中で毎日祈りを捧げました。
それから時が流れ――
ある日、通りかかった若き王子が、棺の中の白雪姫に一目で心を奪われました。

「どうか……この娘を、私に譲ってくれませんか。生きていようと、いまは亡き人であろうと、私は彼女を愛してしまったのです。」
小人たちは悩んだ末、王子の誠実さに心を動かされ、棺を託します。
王子の従者たちが棺を担いだその時――
つまずいた拍子に、白雪姫の喉に詰まっていたリンゴの欠片が飛び出したのです。
白雪姫は、まるで長い夢から目覚めるように、静かに目を開けました。

「ここは……?」
そして目に映ったのは、自分を見つめる優しいまなざしの王子。
その瞳に、白雪姫の胸は不思議な温もりで満たされていきました。
王子は微笑みながら、そっと彼女の手を取ります。
「あなたに会うために、ここまで来た気がします。」
ふたりは見つめ合い、言葉のいらない思いを交わしたのです。
そして二人は互いの運命を感じ、結婚を決意します。
それから数日後――
白雪姫と王子の結婚式が盛大に行われました。
それは王国中が祝福に満ちる、美しく晴れやかな日でした。
森の中の小さな家から始まった少女の物語は、今、まばゆい光の中で実を結ぼうとしていたのです。
王子と白雪姫は、すべての国から賓客を招き、盛大な宴を催しました。
その招待状は、あの女王――かつて白雪姫を憎んだ継母のもとにも届きました。
第六章:終焉-鏡が映した、女の末路…焼けた鉄靴の刑
鏡の前で、自分に問いかける女王。
「鏡よ、鏡。この世でいちばん美しいのは、だあれ?」
鏡は静かに、そしてはっきりと答えます。
「それは、新たな王妃、白雪姫です。」
女王の顔はゆがみ、唇は震え、青ざめたまま、
彼女は王城の門をくぐりました――自らの末路を知らぬままに。
祝宴の席。
あでやかな衣装に身を包んだ招待客たちの中で、
白雪姫は王子の隣に立ち、凛としたまなざしで継母を見つめていました。
そして、静かに、王子は命じました。
「王妃にふさわしい、特別な“贈り物”を――」
しばらくして、家臣たちが一対の鉄の靴を運んできました。
それは、真っ赤に焼け、火のように輝く恐ろしい靴でした。
兵士が宣言します。
「この者、白雪姫を幾度も命の危機に陥れし罪により、
焼けた鉄の靴を履き、死ぬまで踊る刑に処される。」
継母の顔から血の気が引きます。
叫び声も許されぬまま、彼女は兵士たちに押さえつけられ、
焼けた鉄の靴を――足に、履かされたのです。

その瞬間、**ジッ……!**と肉が焼ける音と共に、女王の体はのけぞり、
彼女は、狂ったように踊り出しました。
焦げる足、ゆがむ表情、
けれど誰も手を差し伸べる者はいませんでした。
宴はそのまま続き、
継母は笑う者たちの前で、死ぬまで踊り続けたのです。
それは残酷な正義であり、
同時に、物語の終止符でもありました。

白雪姫は、もう決して振り返りませんでした。
彼女のそばには、愛する王子と、あたたかな光だけが残っていたのです。
二人は幸せに暮らしたということです。
結末エグイですね。
この残酷な描写には以下のような意味が込められていると考えられています。
- 因果応報:他人に苦しみを与えた者には、それに見合った罰が下されるべきという道徳的メッセージ。
- 民話的なケジメ:ヨーロッパの民間伝承では「悪を完全に終わらせる」ため、明確な死が必要とされることが多い。
- 女性の“老いと嫉妬”の象徴としての最期:美を奪われた女が、その美に対する執着の果てに「醜い死」を迎えるという寓意。
美と嫉妬──白雪姫という寓話の深層
「白雪姫」はただの恋と魔法の童話ではありません。
この物語には、“女性の美”をめぐる社会的な視線と、そこから生まれる嫉妬や呪縛が隠れています。
継母=かつて“最も美しかった”女
継母は、若さと美しさによって王妃の地位を手に入れました。
しかし、その価値を支えていたのは、他者からの評価――とくに「鏡」による認定です。
白雪姫が成長するにつれ、自身の立場が危うくなることを感じ取り、
嫉妬と恐怖が彼女を蝕んでいきます。
つまり彼女は、“老いてゆくこと”への不安を体現した存在でもあるのです。
白雪姫=“見る者の理想”としての存在
一方の白雪姫は、美しく、従順で、無垢で、どこまでも“受け身”な存在です。
どんなに酷い仕打ちを受けても、決して怒りもせず、ただ眠ることで物語の結末を迎えます。
これは、古い時代の理想とされた「美しい女性像」がそのまま反映されたキャラクターとも言えます。
「鏡」とは何か?
魔法の鏡は、物語の中で真実の象徴として描かれますが、
裏を返せば「他人の目=社会的価値観」の象徴とも考えられます。
誰かと比べられ、評価される中でしか、自分の美や価値を信じられない――
そうした姿は、現代のSNS社会とも共鳴します。
ロシア版・白雪姫:『マローズカ』のあらすじ
ロシアにも、白雪姫に似た物語があります。そのひとつが『マローズカ(Morozko)』です。
あるところに意地悪な継母とその夫(父)がいました。
継母は実の娘ばかりを可愛がり、義理の娘(継子)をいじめて寒い森に置き去りにします。
そこへやってきたのが、冬の精霊「マローズカ」。
彼は最初、少女に冷たい風を吹きつけながら試しますが、少女が礼儀正しく、優しい心で接すると――
「おまえはやさしい娘だ。私がご褒美をあげよう」
と、豪華な衣装と宝物を与えてくれます。
一方、継母が同じように自分の実の娘を森へ送り込むと、娘は横柄な態度でマローズカに接し、凍死してしまいます。
この物語では、**“外見”よりも“内面の美しさと品性”**が報われるのです。
白雪姫との共通点
要素 | 白雪姫 | マローズカ |
---|---|---|
継母 | 嫉妬で追い詰める | 実子だけを可愛がる |
主人公 | 美しい少女 | 優しい少女 |
危機 | 森で命を狙われる | 森で凍えさせられる |
救い | 小人と王子 | 冬の精霊(マローズカ) |
結末 | 王子と結婚し復讐する | 精霊に認められ宝物を得る |
結びにかえて──鏡の問いは、今もなお
「この世でいちばん美しいのは、だあれ?」
現代においても、私たちはSNSという“鏡”を覗き込み、
他人の姿や評価と、自分を比べてしまうことがあります。
けれど、白雪姫のように“評価される側”に、
継母のように“評価を失う不安に囚われる側”に、
誰もがなりうるのかもしれません。
大切なのは、鏡の中の自分ではなく、自分自身が自分をどう思うかではないでしょうか。