「雪の女王」あらすじをやさしく解説|アンデルセン童話の感動物語を物語調で紹介
ディズニー映画『アナと雪の女王』の原案のひとつとして知られる、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話『雪の女王』。
けれど原作は、エルサやアナとはまったく異なる、もっと静かで幻想的な物語です。
本記事では、その『雪の女王』を、簡単に、やさしく物語調でご紹介します。
『雪の女王』物語風:第1章「悪魔の鏡」
むかしむかし、あるところに、ひどく意地悪な悪魔がいました。
彼は人々の心を歪ませ、世界を冷たくするために、ある特別な鏡を作りました。

その鏡は、美しいものはすべて醜く、醜いものはもっとひどく見えるように映す、恐ろしい力を持っていたのです。
太陽の光も、天使の顔も、この鏡に映せば、汚らしく恐ろしく見えるようになってしまいます。
悪魔の弟子たちはその鏡を天高く持ち上げ、「天の神様にまでこの鏡を見せてやろう!」とふざけて飛び回りました。
しかし、鏡はあまりに高くまで上げられたとき、突然、空の上で粉々に砕け散ったのです!
砕けた鏡の破片は、世界中に降り注ぎました。
目に入れば「物事の見方が歪み」、心に刺されば「心が氷のように冷たくなり」、人の優しさや愛を信じられなくなる、そんな恐ろしい破片でした。
この不思議な破片が、ある日、小さな男の子・カイの目と心に刺さってしまうのです……。
第2章「小さな庭の中の少年と少女」
カイとゲルダは、お隣同士に住む仲良しの子どもでした。

二人の家は屋根裏部屋どうしで、窓から手を伸ばせばお互いの手に届くほどの距離。屋根の間には小さな花壇があり、二人はバラの花を一緒に育てていました。
春になればバラは咲き、夏には緑が生い茂り、
カイはゲルダに言いました。
「ねえゲルダ、ぼくたち、ずっとこうしていようね。バラが咲く限り、ぼくたちは友だちだ!」
ゲルダもにっこり笑ってうなずきます。
しかしある冬の日、悲劇が訪れます。
雪の舞う中、カイが外で遊んでいたとき、突然、何か小さなものが目に入り、胸に突き刺さったのです。
「……あれ?」とカイは目をこすりました。
でも、何も見えない。
その瞬間から、カイは変わってしまいました。

優しかった言葉が冷たくなり、大好きだったバラも「くだらない」と言い捨て、ゲルダに向かっても、きつい言葉を言うようになってしまいました。
「どうしてそんなに泣いてばかりなんだよ、バカみたい!」
……ゲルダは悲しくてたまりませんでした。
カイの目と心に刺さっていたのは、あの悪魔の鏡の破片だったのです。

そしてある日、カイは大きなそりに乗った白い女性に誘われ、雪の中へと消えてしまいます。
その女性こそ――雪の女王でした。
ゲルダはカイの帰りを待ち続けますが、春になっても戻りません。
「きっとどこかにいる。わたしが助けにいく!」
そう決意したゲルダの長い冒険の旅が、ここから始まります。
第3章「魔法の花園と忘れられた時間」
ゲルダは、小さな靴をはいて、カイを探しに出かけました。
流れの早い川のほとりまで来ると、彼女は祈るように言いました。
「お願い、川さん。カイのところへわたしを連れて行って!」
その願いを聞いたかのように、川に浮かぶ小さなボートがひとりでに岸を離れ、ゲルダを乗せてゆっくりと流れていきました。
しばらくすると、ボートは不思議な庭の前に着きます。
そこには色とりどりの花が咲き乱れ、香りが空にまで満ちていました。

庭の家には、優しそうな老婦人が住んでいて、ゲルダに言います。
「まあまあ、可哀そうに。さあ中にお入り。温かいミルクを飲んでおやすみなさい」
老婦人は実は魔女でした。悪い人ではなかったけれど、ひとりぼっちが寂しかったのです。
だからゲルダを自分のもとに留めておきたいと思いました。
彼女は魔法のくしでゲルダの髪をとかし、カイのことを忘れさせてしまいました。
それから日々は過ぎていきます。
ゲルダは美しい花園で幸せに過ごしますが――
ある日、ふと、赤いバラを見つけたときに、すべてを思い出しました。
「カイ……! わたし、カイを探してたんだ!」

花たちに尋ねても、誰もカイのことは知りませんでした。
でもゲルダは、もうここにはいられないと決意します。
「ありがとう。でも行かなきゃ。カイを助けに!」
ゲルダは魔女の家を飛び出し、再び旅を始めるのでした。
第4章「王子と王女」
花園をあとにしたゲルダは、森の中をひたすら歩きました。
寒さに震え、涙をこらえて進む彼女の前に、一羽のカラスが現れます。
「おや、あなたは人間の子どもかい? もしかして、カイという男の子を探しているのかい?」

カラスの言葉に、ゲルダはぱっと顔を上げました。
「知ってるの!? カイはどこにいるの?」
「わたしの知り合いのカラスの奥さんが、立派なお城で働いているんだ。そこに最近、ある賢い少年が現れて、王女さまと仲良くなったって話なんだよ。もしかして、その子がカイかもしれないね」
カラスに導かれ、ゲルダは夜の城へ忍び込みます。
お城の中では、王女が頭のいい夫を探していて、一人の物静かな少年がその知恵を認められ、王子として迎えられていたのです。
「カイ……!」
ゲルダはそっと寝室をのぞきました。
――でも、そこにいたのは、カイではありませんでした。
確かにカイによく似た男の子。けれど別人でした。

王子と王女はゲルダの話を聞いてとても感動し、彼女に馬車と暖かい服、お菓子まで用意して旅の続きを支援してくれます。
「あなたはとても勇敢な女の子ですね。きっとその優しさは、凍った心を溶かす力になるでしょう」
ゲルダは王子と王女に深くお礼を言い、再びカイを探して旅立ちます。
第5章「山賊の娘」
王子と王女にもらった美しい馬車に乗って、ゲルダは北を目指します。
けれどその途中――深い森の中で山賊に襲われてしまいます!
「ひゃっはー! こんなかわいい子が金の馬車に乗ってるとはな!」

ゲルダは山賊たちにとらえられ、森の奥の隠れ家へと連れて行かれます。
そこには、動物の骨や奇妙な鳥がぶらさがる、怖い雰囲気の小屋がありました。
でもそこにいたのは、予想とちがって、
小さな少女の山賊。彼女は短刀を腰に差し、野生動物の毛皮をまとっていました。
「アンタ、名前は? …ゲルダ? カイを探してんの?へー度胸あるじゃん!」

山賊の娘は、ちょっと乱暴だけど、どこか寂しそうな目をしている少女でした。
彼女は、自由に飛び回るトナカイの話をしてくれます。
「このトナカイはね、北のラップランドってところから来たんだ。雪と氷の国さ。きっと、雪の女王の住む場所もそこにあるんだろうな」
ゲルダは必死に頼みます。
「お願い、カイを助けたいの。トナカイに乗せて北へ行かせて!」
しばらく黙っていた山賊の娘は、ため息をついて言いました。
「チッ……勝手にしな。でもな、あたしが誰にも言わずに逃がしてやるんだから、アンタ、絶対にカイを見つけなよ。いいね?」
そしてその夜――
ゲルダは山賊の娘に助けられ、トナカイに乗って雪と氷の北の国へ向かうのでした。
第6章「フィン人とラップ人の知恵」
ゲルダは、山賊の娘から託されたトナカイに乗って、吹雪の北の大地を旅します。
どこまでも広がる白い世界。空には星も見えず、風は顔を切るように冷たく吹きつけてきます。
やがて彼らは、小さな小屋にたどりつきます。

そこに住んでいたのはラップ人の老婆。
氷のように冷たい空気の中でも静かに火をたき、トナカイに話しかけました。
「……ふむ。雪の女王の城へ行くには、もう少し北だね。けれどそこは、ただの子どもが行くにはあまりに危険な場所だよ」
ゲルダは力強くうなずきます。
「わたし、絶対にカイを助けたいんです。どんなに怖くても行きます!」
老婆はうなずき、ゲルダに手紙のようなものを持たせて言います。
「この手紙を持って、さらに北に住むフィン人の知恵者を訪ねなさい。彼女なら、あんたに何か大切なことを教えてくれるかもしれないよ」
さらに北へ。
極寒の風の中を進み、ゲルダとトナカイは、岩のような形の家に住むフィン人の女性に出会います。
彼女はゲルダをじっと見つめ、ラップ人の手紙を火にくべてから静かに言いました。

「ゲルダ……おまえには、もう十分な力がある。それは――愛の力だよ」
「わたしに、魔法の力はないんです。でもカイを助けたい気持ちは、だれにも負けない」
フィン人の女性は微笑みます。
「その想いこそが、雪の女王の魔法を溶かす唯一の力、愛なのだよ」
ゲルダは、心に確かな希望と覚悟を持って、ついに――雪の女王の氷の城へ向かいます。

第7章「雪の女王の城とカイの涙」
北の果て、世界の尽きるような場所。
そこに、雪の女王の城はありました。
氷でできたその城は、完璧な美しさと、冷たい静けさに満ちています。
すべてが白く、すべてが凍りつき、誰の声も、誰の心も、そこでは響きません。
その中心に――カイがいました。
彼は氷の床に座り込み、無表情のまま、氷の破片を組み合わせて「永遠」という言葉を作ろうとしていました。

雪の女王は言いました。
「この言葉を完成させたら、おまえは自由になれる」
文字を完成させたカイでしたが、心は凍ってしまい、感情を失ってしまいました。
そして、その目は、まだ悪魔の鏡の破片で曇ったまま。
そこへ――ゲルダがやってきたのです!
「カイ! カイ、わたしだよ!」
ゲルダは凍える足で駆け寄り、カイを抱きしめました。でもカイは、まるで知らない人のような目をしていました。
ゲルダは泣きました。
その涙は――カイの胸の中へと落ちていきます。
すると……
カイの胸に刺さっていた氷の破片が、溶けて消えたのです。
悪魔の鏡の呪いも、雪の女王の力も全て、ゲルダのカイへの愛が溶かしてしまったのです。

そして次の瞬間――
カイの目からも、ぽろりと涙がこぼれ落ちました。
「……ゲルダ? どうしてここに?ぼく、ずっと……さむくて……こわくて……」
ゲルダは笑って言いました。
「大丈夫。もう一緒に帰ろう」
その瞬間、「永遠」の氷の文字は崩れ、城の中の氷も、ひとつずつ溶けていきました。
カイとゲルダは、フィン人とラップ人、トナカイたちの助けを借りて、
長い旅を経て、ついにふたりの家に帰りました。
バラの花が咲く小さな庭も、変わらずそこにありました。

そしてふたりは、もう子どもの姿のままではありませんでした。
なぜなら、幾つもの試練を超え、強く、やさしく、そして本当に大人になっていたのです。
おわりに
この物語の中で、**ゲルダの「愛の力」**が、どんな魔法よりも強く、冷たく閉ざされた心を溶かしました。
それは、アンデルセンが信じた――
「純粋な心は、どんな闇も乗り越えられる」
という祈りそのものだったのかもしれません。
この物語の本質は、「倒す」ではなく「取り戻す」こと。
ゲルダが勝ったのではなく、カイが自分を取り戻し、二人が元の場所へ帰った――
それこそが『雪の女王』の結末の美しさです。