アーサー王伝説|第1章 石の剣を抜いた少年――知られざる始まりの物語

【物語】若き王、石の剣を抜く

その剣は、誰にも抜けなかった。

ロンドンの大聖堂の中庭に、不思議な石が置かれていた。
その石には一本の剣が深く突き刺さり、柄にはこう刻まれていた。

「この剣を引き抜く者こそ、真のブリテンの王なり」

王が亡くなった後、国は混乱していた。
王位を巡る争い、民衆の不安――。
人々は“選ばれし者”の出現を待ち続けていた。

その少年、アーサーは、騎士エクトルのもとで育てられていた。
血筋も名も知らぬまま、兄ケイの従者として地味な日々を送っていた。

ある日、兄ケイが武具を忘れたため、アーサーはあわてて剣を探しに町を駆けた。
そして、誰もが「抜けない」と諦めていた石の剣の前に立つ。

ChatGPT-Image-2025年4月9日-19_04_53-1024x683 アーサー王伝説|第1章 石の剣を抜いた少年――知られざる始まりの物語

ただ兄のために、ただ剣が必要で――。
少年は、そっとその剣に手をかけた。

次の瞬間。
剣は、まるで待っていたかのように、静かに、軽やかに抜けた。

場にいた者は皆、息を呑んだ。

「まさか…あの子が?」

何度でも繰り返された試み。
だが、剣を抜けるのはアーサーだけだった。

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こうして、誰にも知られていなかった少年が、ブリテンの正統なる王として選ばれたのだった。


【考察】“選ばれし者”とは誰か――アーサー王が教えるリーダーの本質

アーサーは、自分が王の血を引いていることを知りませんでした。
彼の心には、野心も驕りもなく、ただ「兄のために剣を探す」という一途な気持ちだけがありました。

誰もが誇りや名誉のために剣を引こうとした中で、アーサーだけが“無欲”のまま剣に手をかけ、それに応えるように剣が抜けたのです。

この物語は、王の資格とは「血筋」や「力」ではなく、

素直な心、誠実な行動こそが人を導く本質である――

というメッセージを私たちに語りかけているようです。

ファンタジーの原点とも言えるこのエピソードは、のちのハリー・ポッターや『指輪物語』のフロドなど、“選ばれし者”の系譜にもつながっています。


【補足】石の剣とエクスカリバーは別物?

実は、この「石から抜く剣」は、後に湖の乙女から与えられる「エクスカリバー」とは別物という説があります。

トマス・マロリーの『アーサー王の死(Le Morte d’Arthur)』では、後に別の神秘的な剣が登場し、それこそが“真のエクスカリバー”だとされるのです。

次回は第2章「円卓の誓いと騎士たちの結集」を予定しています。
アーサーのもとに集う誇り高き騎士たちと、理想の王国の始まりをお楽しみに。

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