アーサー王伝説|第1章 石の剣を抜いた少年――知られざる始まりの物語
【物語】若き王、石の剣を抜く
その剣は、誰にも抜けなかった。
ロンドンの大聖堂の中庭に、不思議な石が置かれていた。
その石には一本の剣が深く突き刺さり、柄にはこう刻まれていた。
「この剣を引き抜く者こそ、真のブリテンの王なり」
王が亡くなった後、国は混乱していた。
王位を巡る争い、民衆の不安――。
人々は“選ばれし者”の出現を待ち続けていた。
その少年、アーサーは、騎士エクトルのもとで育てられていた。
血筋も名も知らぬまま、兄ケイの従者として地味な日々を送っていた。
ある日、兄ケイが武具を忘れたため、アーサーはあわてて剣を探しに町を駆けた。
そして、誰もが「抜けない」と諦めていた石の剣の前に立つ。

ただ兄のために、ただ剣が必要で――。
少年は、そっとその剣に手をかけた。
次の瞬間。
剣は、まるで待っていたかのように、静かに、軽やかに抜けた。
場にいた者は皆、息を呑んだ。
「まさか…あの子が?」
何度でも繰り返された試み。
だが、剣を抜けるのはアーサーだけだった。

こうして、誰にも知られていなかった少年が、ブリテンの正統なる王として選ばれたのだった。
【考察】“選ばれし者”とは誰か――アーサー王が教えるリーダーの本質
アーサーは、自分が王の血を引いていることを知りませんでした。
彼の心には、野心も驕りもなく、ただ「兄のために剣を探す」という一途な気持ちだけがありました。
誰もが誇りや名誉のために剣を引こうとした中で、アーサーだけが“無欲”のまま剣に手をかけ、それに応えるように剣が抜けたのです。
この物語は、王の資格とは「血筋」や「力」ではなく、
素直な心、誠実な行動こそが人を導く本質である――
というメッセージを私たちに語りかけているようです。
ファンタジーの原点とも言えるこのエピソードは、のちのハリー・ポッターや『指輪物語』のフロドなど、“選ばれし者”の系譜にもつながっています。
【補足】石の剣とエクスカリバーは別物?
実は、この「石から抜く剣」は、後に湖の乙女から与えられる「エクスカリバー」とは別物という説があります。
トマス・マロリーの『アーサー王の死(Le Morte d’Arthur)』では、後に別の神秘的な剣が登場し、それこそが“真のエクスカリバー”だとされるのです。
次回は第2章「円卓の誓いと騎士たちの結集」を予定しています。
アーサーのもとに集う誇り高き騎士たちと、理想の王国の始まりをお楽しみに。
【アーサー王物語 (偕成社文庫)/ジェイムズ・ノウルズ 著】
中世の騎士道と伝説が息づく、永遠の名作――。
円卓の騎士たち、聖剣エクスカリバー、魔術師マーリン、そしてアーサー王の壮絶な運命……。
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