【福島の昔話】三枚のお札と少女の知恵──山姥との知恵くらべと村の団結
「三枚のお札」といえば、小僧が山姥に追われる有名な昔話ですが、
福島県に伝わるこの話では、“少女”が主役となります。
彼女はただ逃げるだけでなく、知恵を働かせ、そして村の人々が力を合わせて山姥に立ち向かいます。
この物語には、東北ならではの生活感とあたたかさ、そして静かな力強さが息づいています。
昔むかし、福島の山あいの村で――
ある村に、働き者の娘が住んでいました。
家は貧しく、母とふたり、慎ましく暮らしておりました。
ある日、母がこう言いました。

「山のお寺さまで、炊き出しの手伝いを探しておるそうだよ。行ってきておいで。」
娘は「はい」と素直に返事し、
おにぎりを風呂敷に包み、草履の紐をきつく結んで出かけていきました。
お札と山姥の誘い
お寺では和尚さまが娘を見て、こう言いました。
「この山の奥には、山姥が住んでいる。
これは“三枚のお札”じゃ。
なにかあったら、順番に使いなされ。」

そうして渡されたのは、白い紙に梵字のような模様が書かれた三枚のお札でした。
娘は胸の奥にしまい、薪を取りに山へ向かいました。
恐怖の家
山の奥で薪を拾っていると、
ぬうっと現れたのは、ぼさぼさ髪の老婆。赤い着物に裸足。目はぎらりと光っています。

「まあまあ、お嬢ちゃん。
よく来たねえ。うちでお粥を炊いているから、食べておいき。」
やさしげな声と微笑み。
娘は迷いましたが、夕暮れも近くなっていたので、ついて行ってしまいました。
家の中は暗く、妙な香りが漂っていました。
夕食が終わると、老婆は娘を寝かせ、囲炉裏のそばでひとりごとをつぶやき始めました。
「ふふふ……明日になったら煮て食べようかねえ……
娘の肉は柔らかいからねえ……」
それを、こっそり聞いていた娘は震えながら布団を抜け出し、一枚目のお札を戸口に貼ってつぶやきました。

「私の身代わりになってください……!」
逃げる少女と追う山姥
お札は娘の姿になり、布団の中に横たわります。
娘はその隙に、夜の山道を駆け出しました。
夜明け前、山姥が布団を開けた瞬間――
ばちん! とお札が光を放ち、霧のように消えました。

「逃げおったなァァァァァ!!」
山姥は怒り狂い、鬼のごとき速さで追いかけてきます。
娘は次に、川を前に立ち止まり、二枚目のお札を取り出して言いました。
「橋になって、渡らせてください!」

すると、お札はぱっと光り、川に橋をかけてくれました。
娘は駆け渡り、橋が消える直前に後ろから山姥が落ちていきましたが、
それでも山姥は這い上がってきます。
最後の札と村人の鐘
村が見えてきた頃、娘は最後の三枚目のお札をお寺の門に貼って祈りました。
「どうか、山姥を追い払ってください……!」

すると、門がぴしりと閉まり、お札が光を放って山姥を弾きました。
しかし――
それでも山姥は吠えながら村に向かおうとします。
そのとき、村人たちが鐘を鳴らし、松明を持って集まってきました。
「山姥が来たぞー!皆で守るんだ!」
少女を守ろうと村全体が立ち上がったのです。

山姥は火の手と人の声に圧され、
悔しそうに地面をかきむしりながら、
闇の中へと姿を消していったといいます。
おわりに
少女の勇気とお札の力、
そして村人の助けによって、恐ろしい山姥は撃退されました。

この話は今も福島の山里で語り継がれ、
子どもたちは「困ったときは知恵と人の助けを忘れるな」と教えられるのです。
補足:出典・研究資料
- 『福島の昔話』福島民話研究会(未来社)
- 『日本昔話通観』関敬吾 編(角川書店)第16巻 山姥譚
- 「三枚のお札」話型:ATU 327A(国際昔話分類)
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