目だけの妖怪たち|目目連・百目・百々目鬼…不気味な視線の伝承をたどる

日本の妖怪には、人を襲うもの、騙すもの、恐怖で金縛りにするものなど、さまざまな存在がいます。

その中でもひときわ異質なのが、“目”に特化した妖怪たち。

声も出さず、姿も現さず、ただ「こちらを見ている」――

その視線こそが恐怖の源。今回は、日本に伝わる「目の妖怪」たちを、実際の伝承と民話風のエピソードと共にご紹介します。

目目連(もくもくれん)|障子に現れる静かな視線

出典:鳥山石燕『画図百鬼夜行』、水木しげる『妖怪事典』

障子の破れた穴から、無数の目がこちらをじっと見つめてくる――
そんな奇怪な妖怪が「目目連(もくもくれん)」です。

古びた宿や空き家に宿るとされ、夜ごと目が浮かんでは消え、誰かの行動を見守っているとも、不吉の前触れとも言われています。


【エピソード】

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ある旅僧が、山中の古寺に一夜の宿を借りた。
冷えた夜、燭台の火を頼りに障子の前で経を唱えていると、ふと視線を感じて顔を上げる。

そこには――破れた障子のあちこちから、じっと見つめる目、目、目…。

僧は驚かず、ただ静かに言った。
「我、悪しき者にあらず。願わくば眠られよ。」

すると、目はすうっと消え、障子にはいつもの破れだけが残っていた。


百目(ひゃくめ)|闇夜に浮かぶ百の眼球

出典:『百怪図巻』など江戸時代の妖怪絵巻

「百目」は、その名の通り、全身に無数の目を持つ巨体の妖怪。
月のない夜にあらわれ、道行く人々を驚かせる存在として描かれてきました。

見る、という行為そのものが力になる存在であり、「目をそらすこと」がかえって命取りになるともいわれます。


【エピソード】

ある侍が夜道を馬で駆けていた。雲に月が隠れ、道も森も暗闇に沈む。
ふと気配を感じ、道の脇に目をやると、そこに――光る目玉が幾つも、幾つも浮かんでいた。

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「何者か!」と叫ぶと、闇の中から声が響いた。
「我は、見る者にして見られる者なり。」

侍は刀に手をかけたが、目をそらさず、じっと見返した。
すると目は闇に吸い込まれるように消え、再び夜の静けさが戻ったという。


百々目鬼(どどめき)|腕に浮かぶ罪の目

出典:『和漢三才図会』、室町期の説話

「百々目鬼(どどめき)」は、かつて人間だった女性が盗みを重ねた末に変じた妖怪。
盗んだ小銭の呪いによって、その腕に次々と「目」が浮かび上がったとされます。

その目は、彼女の罪を見張るように、また、他人の良心を刺すようにぎらぎらと輝くのです。


【エピソード】

昔、ある村に物静かな女がいた。真面目な顔の裏で、人の銭を盗む癖があった。
やがて、彼女の腕に赤黒く膨れた“腫れ”のようなものが現れ、それが一つ、また一つと目に変わっていった。

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やがて女は姿を消し、山奥の祠にひとりこもっていた。
通りがかった僧が声をかけると、女は袖をまくり、百もの目がこちらを睨んでいた。

僧は合掌して言った。
「その目を閉じたくば、己を許すことから始めなされ。」

女は涙を流し、目の一つが静かに閉じたという。


目競(めくらべ)|目の数を誇る怪物

出典:江戸時代の口承怪談

「目競(めくらべ)」は、人と目の数を競おうとする奇妙な妖怪です。
時に自分の顔に目を増やし、時に人の持ち物や壁に目を浮かばせ、「どちらが多いか」を問うてきます。

数を誇る癖に、鏡を見せられると消えるという弱点があると伝えられています。


【エピソード】

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とある村に、「目が多いほど強い」と言ってまわる男が現れた。
顔や首に目がびっしり、しかも動いている。

村人たちが驚く中、一人の娘が鏡を取り出し、男に向けて言った。
「それほどの目をお持ちなら、見てみなされ――あなた自身の姿を。」

目競は一瞬戸惑い、鏡に映った自分を見た。
その瞬間、目はみるみると濁り、男は風のように消えたという。


おわりに|「目」は恐怖の入り口か、それとも記憶か

妖怪たちの「目」は、単なる器官ではありません。
それは、**人の罪を見抜き、行動を見守り、良心を試し、恐怖を刺す“鏡”**でもあるのです。

襖や障子の向こうから、誰かが――あるいは“何か”が、こちらを見ている。
そんな想像をしたことがある方は、もしかしたら、目の妖怪に出会っているのかもしれません。

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