アイヌラックルの誕生物語|アイヌ神話に伝わる人間の英雄とは?(1/5)
北海道の大地に生きてきたアイヌの人々には、自然の神々――カムイたちとともに暮らしてきた長い歴史があります。
火のぬくもり、川を流れる水、森を歩く動物たち。
それらすべてに神が宿ると信じ、感謝とともに生きてきました。
そんなアイヌの伝承のなかには、ときに神と人とのあいだを行き来し、
人々に知恵を授けた特別な存在が語られています。
その名は――アイヌラックル。
これは、神の世界から人間のもとへと送りこまれた若き英雄、
アイヌラックルがたどった物語のはじまりです。5話編成でおとどけします。
第1話:英雄の誕生 ― アイヌラックル
むかしむかし、神々の世界――カムイモシリでは、ひとつの声が響いていました。
「人間たちが、困っているようだ」

山の神も、海の神も、火の神も、その声に耳を傾けました。
森に住む人間たちは、火の使い方を知らず、寒さに震え、
言葉もなく、互いの思いを伝えることさえままならぬ暮らしをしていたのです。
そんな人間たちを見て、神々は話し合いました。
「このままでは、いずれ命を落とすものも出よう。誰か、知恵を届けてやれぬか」
しんと静まる神々の集まりのなかで、一柱のカムイが前に出て言いました。
「それならば――この若者を、人間の世界に送りましょう。
まっすぐな心と、やさしさを持ち、カムイの言葉を人間に伝えることのできる者です」
選ばれた若者

そのとき、ひとりの若者が前に現れました。
凛としたまなざし、すっと立つ姿。
まだ言葉はありませんでしたが、彼の目は、すべてを知っているかのようでした。
「おまえの名は、アイヌラックル。
人間のもとへ行き、火を教え、言葉を伝え、命のつながりを知らせるのだ」
こうして彼は、神の世界から人間の世界――アイヌモシリへと旅立ちました。人々に知恵と大切な事を教えるために。








