ハロウィンの起源「ソーウィン」と妖精にさらわれた娘|幻想と恐怖が交わるケルトの夜
私たちが親しんでいるハロウィンは、もともと「お化けの仮装を楽しむ日」ではありませんでした。
その起源は、約2000年前のケルト民族が祝っていた**ソーウィン(Samhain)**という祭りにあります。
この祭りは、夏の終わりと冬の始まりを告げる重要な節目で、10月31日の夜に行われました。
ソーウィンとは
古代ケルトの人々は、1年を「明るい季節(夏)」と「暗い季節(冬)」の2つに分けて考えていました。
ソーウィンはその境目の日であり、
「生者の世界と死者の世界の境が最も薄くなる夜」と信じられていたのです。

この夜、先祖の霊が家に帰ってくると同時に、
人間に悪戯をする精霊や妖精、魔女なども地上を歩くと考えられていました。
人々は家の前に食べ物を置いて霊をもてなし、
怖い仮面をかぶって悪霊を追い払いました。
この風習が、やがてハロウィンの仮装やお菓子の起源になったといわれています。楽しいですね。
妖精にさらわれた娘の物語
そんなソーウィンの夜に起こったとされる、不思議で少し悲しいお話を紹介します。
霧の丘の歌声
ある村に、美しい声を持つ娘がいました。
娘は毎晩、家のそばの丘に立ち、月に向かって歌をうたうのが好きでした。

ある年のソーウィンの夜――
村は厚い霧に包まれ、どこからともなく笛や鈴の音が聞こえてきました。
娘は不思議に思い、その音を追って丘の上へ向かいました。
すると、霧の向こうに光が現れ、
金や銀の衣をまとった人々が輪になって踊っていたのです。
彼らは人間ではなく、**妖精(シー)**と呼ばれる存在でした。
妖精の宴
妖精たちは娘の歌声を気に入り、手を取って輪の中に招き入れました。
「あなたの声は美しい。私たちと一緒に歌いましょう」

娘は不思議な喜びに包まれ、夢のような夜を過ごしました。
けれど、気がつくと夜明けの光が丘を照らしていました。
百年の時
娘が村へ戻ると、家はなく、見知らぬ人々が畑を耕していました。
彼女が自分の名を告げても、誰も知りません。
老人がひとり近づいて言いました。

「その名の娘なら、百年前に妖精にさらわれたと伝えられておるよ」
娘は愕然とし、丘に戻ると、
そこにはもう妖精の輪も光もありませんでした。
ただ風だけが、彼女の歌を覚えていたかのように静かに吹いていたのです。
おわりに
ハロウィンの夜――それは、楽しいお祭りであると同時に、
この世とあの世、現実と幻想が交わる夜でもあります。

妖精にさらわれた娘のように、
私たちも知らぬうちに“向こう側”の世界をのぞきこんでいるのかもしれません。
ハロウィンの夜は、どうか少しだけ静かに耳を澄ませてみてください。
もしかしたら、霧の向こうから妖精たちの歌声が聞こえてくるかもしれません。




