ハロウィンの夜に現れる“ウィル・オ・ザ・ウィスプ”|炎の車に乗った魂の伝説
ハロウィンの夜、湿地や森の奥でふと見える青白い火――。
人々はそれを「ウィル・オ・ザ・ウィスプ(Will-o’-the-Wisp)」、
または「鬼火」と呼んできました。
それは迷える魂の光とも、悪戯好きな精霊の灯ともいわれています。
今回は、そんな“火の霊”にまつわる、ヨーロッパの古い伝承をご紹介します。
ウィルという男の罪
むかし、イングランドの沼地に「ウィル」という鍛冶屋がいました。
彼は腕がよく、村の誰もが頼りにしていましたが、
同時にずる賢く、金のためなら嘘も平気でつく男でした。

ある夜、悪魔が彼の前に現れます。
「ウィル、お前の魂をわしにくれ。その代わり、富と力を与えよう。」
ウィルは笑いました。
「いいだろう。ただし、まだ死ぬわけにはいかない。今すぐじゃなくていいだろう?」
悪魔はその狡猾さに気づかず、約束を交わしました。
すべてを失った夜
年月が過ぎ、ウィルは欲にまみれ、ついに命を落とします。
悪魔は魂を奪いに来ましたが、ウィルは言いました。
「お前のせいでこうなったんだ。地獄には行きたくない。」

そこで悪魔は腹を立て、
「ならば永遠に彷徨え。地獄にも天国にも行けぬ魂として。」
と言い、燃える石炭を一つウィルの手に投げつけました。
炎の車に乗る魂
その瞬間、地面が裂け、炎に包まれた古びた車輪が現れました。
ウィルはその車に乗せられ、
青白い火を灯して沼地を彷徨うことになったのです。

それ以来、霧深い夜になると、
人々は遠くに「炎の車」が走るのを見たと言います。
※ジャックのランタンとそっくりですね
魂の光か、悪戯か
地方によっては、この光は迷える魂の導きとされました。
また別の土地では、「旅人を沼に誘い込み、命を奪う悪霊」とも語られます。

科学が発展した現代では、
この現象はメタンガスやリンの自然発火と説明されます。
けれど、ハロウィンの夜にこの光を見ると、
それが“ウィルの魂”ではないと、誰が言い切れるでしょうか。
おわりに
ウィル・オ・ザ・ウィスプは、
ハロウィンの“霊が迷う夜”を象徴する伝承のひとつです。

嘘と欲で人生を狂わせたウィルの火は、
今もなお、夜の湿地をさまよい続けているといわれます。
もしハロウィンの夜に、
青白い光が道の向こうでゆらめくのを見たら――
どうか、追いかけないでください。
それは、迷える魂の残した灯かもしれません。









