世界の“氷・吹雪・極寒”に宿る怪異5選|寒冷を象徴する精霊・霊・神話的存在とは?
氷や吹雪を操る怪異・精霊たちは、世界の厳しい冬を象徴する存在として語り継がれてきました。
今回は、既存の記事で紹介した「雪女」「ジャックフロスト」などとは別の、新たな5体を厳選し、創作ではなく伝承・文献に記録がある存在のみをまとめています。
冬を迎えるこの季節にぴったりの“寒冷の怪異”たちを見ていきましょう。
❄ 1. カリャッハ(Cailleach)|冬を司る老女の女神(ケルト)

出典:スコットランド民間伝承・アイルランド伝承
“Cailleach Bhéur(カリャッハ・バー)”は「冬の老女」または「嵐の女主人」と呼ばれます。
■ 特徴
- 青白い肌
- 冷たい杖(冬の杖)を持つ
- 大地を凍らせ、吹雪を呼ぶ
- 夏と冬の支配権が交代する物語に登場
特にスコットランドでは山々を創った存在としても語られ、
「彼女が杖で地面を叩けば冬が始まる」と言われるほど、
氷雪そのものの象徴です。
❄ 2. ペルヒタ(Perchta)|冬の境界に現れる“二面性の女神”(ドイツ〜アルプス圏)

出典:ドイツ民俗学・アルプス地方の民話
冬至から公現祭までの時期に現れるとされる女神・妖婦。
■ 特徴
- 美しい姿と醜い姿、双方をとる
- 冬の夜に訪れ、家事の怠りを戒める
- “凍てつく白い衣”で現れることがある
- アルプス一帯で「冬の精」的役割も
彼女はゼンマイ細工のように二面性を持ち、
地域によっては“氷の女王”として描かれるなど、
寒冷の季節そのものを擬人化した存在と言えます。
❄ 3. マハハ(Mahaha)|笑いながら人を凍死させる極寒の悪霊(イヌイット)

出典:イヌイット伝承(カナダ・アラスカ)
■ 特徴
- 青白い痩せ細った体
- 氷のように冷たい指
- 笑い声をあげながら襲う
- 人をくすぐり殺す(体温を奪われ凍死する)
イヌイット伝承では氷の海や極北の嵐と非常に深い関係があり、
「冬の夜に出歩くな」という教訓的な意味も持っています。
❄ 4. 雪婆(ゆきばば)|雪を呼ぶ山の老女(日本・愛媛県伝承)

出典:愛媛県の民話集(地方誌)
日本の雪女は全国で広く知られていますが、
「雪婆(ゆきばば)」は愛媛県の伝承に登場する、
雪に関わる老女型の怪異。
■ 特徴
- 白い髪・白い着物の老女
- 冬の山に現れ、雪を降らせる
- 人を迷わせたり、道を尋ねる者を試す
- 山の精・雪の精としての側面も
- 一本しかない足で追いかけてくるという話も
日本では四国に雪が少ないにもかかわらず、愛媛の山間部には雪婆が語られており、**西日本における貴重な“雪の怪異”**といえます。
❄ 5. 雪鬼(ゆきおに)|雪国に現れる“冬の鬼”(日本・北国の民話)

出典:新潟・富山・東北地方の昔話・民俗資料
雪深い地域で語られる、冬限定で出現する鬼。
■ 特徴
- 大きな白い鬼
- 全身が雪に覆われている
- 吹雪とともに現れ、人をさらう
- 山の鬼が冬に“雪鬼”となると考えられる地域も
雪鬼は「雪女」とは異なり、完全に“鬼族”の怪異であり、
凶暴性・自然災害の象徴性が強い存在です。
結び
いかがでしたでしょうか。
古来より人々は、厳しい冬の寒さや突如訪れる吹雪といった
人智を超えた自然現象に畏怖と敬意を抱き、そこに“顔”や“物語”を与えることで理解しようとしてきました。
そうして生まれた存在が、神話となり、怪異となり、時に守り神として、時に戒めとして語り継がれ、今日まで私たちの文化の中に息づいています。
冬の怪異を知ることは、自然と共に生きてきた人々の知恵や祈りをたどる旅でもあります。
次に雪が降る夜、あなたのすぐそばにも、ひっそりと“冬の精”が立っているかもしれません。










