【世界最古のラブレター】4000年前の粘土板に刻まれた恋の言葉とは?
恋愛の物語と聞くと、私たちは『ロミオとジュリエット』や『源氏物語』などを思い浮かべます。
しかし、それよりもっと古い、**世界最古の「恋の言葉」**が存在することをご存じでしょうか。
その舞台は、今から約4,000年前。
文明が生まれたメソポタミア、現在のイラクの地。
そこには、焼かれた粘土板に刻まれた、一途な愛の言葉が残されていました。
その恋文の送り主
この恋文の送り主は、シュメールの女神 イナンナ(Inanna)。
愛と豊穣、美、戦いを司る神として信仰されていました。

そして手紙の相手は──
のちにウル第三王朝を築いた王、ドゥムジ(Dumuzi)。
二人の愛は、人間と神、王権と神性の結びつきを象徴するもので、王の即位儀式の一部として、恋文は詠まれたと考えられています。
粘土板に残る詩の一節
現存する粘土板には、こんな言葉が記されています。
「私の愛しい人よ、私の甘いものよ、
夜明けの前に、あなたは私を抱きしめるでしょう。」
また別の粘土板には、こんな表現もあります。
「ライオンのような勇敢な人よ、
私の庭に来てください。
私はあなたを待っています。」
情熱的で、比喩に富み、驚くほどロマンチックです。
紀元前の恋愛詩とは思えないほど、生きた感情が表現されています。
儀式と愛の重さ

この詩は「純粋な恋文」というよりも、王が神の力を得るための儀礼としての意味を持っていました。
王は神の花婿となり、国家の繁栄を祈るために詩が朗唱され、儀式が行われたのです。
しかしその言葉づかいには形式的な硬さよりも、
熱く、親密で、個人的な愛情が宿っています。
古代人にとって恋愛は、
神聖な力と結びついた、とても重要なものだったのです。
現代と変わらない「恋の気持ち」
紀元前の王と女神の愛の言葉を読んでいると、
私たちが抱く恋心と、時代も文化も違う彼らの感情が、驚くほど似ていることに気づきます。

好きな人を思う気持ち、
待ち焦がれる切なさ、
一緒にいたいという願い。
そのどれもが、粘土板の上で4000年もの間、静かに眠りながら、確かに息づいています。
おわりに
メールやSNSで気持ちを伝える現代と違い、
古代メソポタミアでは「粘土板に刻む」という手間のかかる手法で恋が綴られていました。
それでも、いや、それだからこそ、
その言葉は今もなお強い力で読み手の心に響きます。
世界最古のラブストーリー。
それは、時間を超えて届いた、飾り気のない「愛の証」なのです。
では、その全文の意訳を掲載して終わりますね。
愛しいあなた。
私の王よ、私の喜び。
あなたの前に立つだけで、
私の心は花のように開きます。
甘い蜜のようなあなたの言葉が、
私の胸の奥まで満ちていきます。
私を抱きしめてください。
夜明けよりも先に、
あなたは私の腕の中にいるでしょう。
あなたは勇敢なライオン。
私の心を奪ったただひとり。
私の庭へ来てください。
成熟した果実が、あなたを待っています。
私の体は柔らかな畑のように耕され、
あなたという雨を求めています。
あなたが触れれば、
私は豊かな土地となり、
命と喜びが満ちてゆくでしょう。
私の夫、私の運命よ。
私の唯一の願いは、
あなたが私を抱きしめ、
私たちがひとつになること。
来てください、私の王よ。
私はあなたの花嫁。
あなたのために香油をまとい、
あなたのために歌い、
あなたのために美しくあるのです。
どうか夜が明ける前に、
私のところへ。
あなたの手を握り、
あなたの胸に顔を寄せ、
私は言うでしょう──
「私はあなたのもの。
そしてあなたは私のもの。」










