バハムートとは何か?イスラム伝承に起源を持つ巨大魚の神話と現代ドラゴン像の違い
「バハムート」と聞くと、多くの人はファンタジーゲームに登場する巨大なドラゴンを思い浮かべるかもしれません。
しかしそのイメージは比較的新しく、元を辿るとイスラム世界や中東地域に伝わる古い宇宙論に行き着きます。
バハムートは、現代の創作作品で描かれるような竜ではなく、世界そのものを支える巨大な――
そして**誰一人として全体像を理解できないほど大きな魚(または海獣)**なのです。
バハムートの伝承の起源
この伝承の主な出典とされるのは、中世イスラム圏で書かれた宇宙誌や地誌です。

代表的なものは以下:
- アル=カズウィーニ『世界の驚異(ʿAjāʾib al-Makhlūqāt)』
- イブン・アル=ワルディ『世界誌』
- アル=ジャーヒズの生物記述
これらの中で、世界は層構造を持つとされ、その基盤部分に置かれた存在こそがバハムートです。
宇宙を支える巨大な魚
伝承によって細部は異なりますが、典型的な世界観は次のように語られます。
世界
↓
天使
↓
宝石の板
↓
巨大な雄牛(クヤーズ)
↓
バハムート
↓
水と闇
バハムートは海の底に存在し、その上に世界を支える巨大な牛が立ち、さらにその上に天地が積み重なる――
いわば神話世界の“世界樹の根”のような存在です。
名前の由来とベヒモスとの関係
「バハムート」という名前は、アラビア語 **Bahīmūt(بهيموث)**に由来すると考えられています。

これは旧約聖書に登場する**ベヒモス(Behemoth)**と語源的に関連していると言われています。
| 名称 | 起源 | 姿 | 役割 |
|---|---|---|---|
| ベヒモス | ユダヤ・キリスト教 | 巨大な陸獣 | 神の創造物 |
| バハムート | イスラム圏 | 巨大な魚・海獣 | 宇宙を支える基盤 |
似た名前ながら、描写も役割も大きく異なる点は興味深い部分です。
伝承に残るエピソード
バハムートは特定の戦いや冒険の物語を持つわけではありません。
多くの場合その存在は――
「あまりに巨大で、人間ごときには理解できない」
「その鱗の一つすら世界より大きい」
と、神の偉大さを示す象徴として語られます。
つまり、バハムートは単なる怪物ではなく、
「神の力を人間に示すための象徴的存在」
なのです。
現代作品での変貌
バハムートの名が世界的に再び注目されるのは、近代のファンタジー文化以降です。

- Dungeons & Dragons:白銀の神聖な竜へ
- Final Fantasyシリーズ:最強クラスのドラゴン召喚獣
こうしてバハムートは、伝承における巨大魚から、至高のドラゴンという完全に別の姿へ進化しました。
これは民俗学では**「神話変異(Myth Mutation)」**と呼ばれる現象で、文化と言語が変わるにつれ、神の姿や意味が再構築される一例です。
まとめ
- バハムートはゲームキャラクターではなく、中世イスラム伝承に実在した神話的存在。
- 元の姿はドラゴンではなく 世界を支える巨大な魚。
- ベヒモスとの語源的関係がありつつも、役割は大きく違う。
- 近代ファンタジー文化の影響で姿が“竜”へと再解釈された。
現代のバハムート像は――
「古代の巨大魚×現代の龍」
という、神話と創作文化が融合した存在と言えるでしょう。










