江戸時代に現れたハレー彗星|庶民が驚いた夜空の怪異
江戸時代にハレー彗星の記録が残っていることをご存じでしょうか。
今回は江戸の空を騒がせた彗星のお話しです。
江戸時代に現れたハレー彗星|庶民が驚いた夜空の怪異
1759年、江戸の夜空に――
見たことのない星が現れました。
尾を引き、
毎晩少しずつ位置を変え、
やがて、何事もなかったかのように消えていく。
現代の私たちは、それを「ハレー彗星」と呼びます。
しかし江戸の庶民にとって、それは説明のつかない怪異でした。
夜空に現れた「異常」
江戸の町は、夜でも人が動く都市でした。
行灯の明かり、
夜回りの拍子木、
屋台の声。
そんな日常の上に、ある晩――
空の異変が起こります。

星なのに、尾を引いている。
昨日と同じ場所にない。
日に日に形が変わる。
「空が、おかしい・・・」
誰かがそう言えば、
皆が足を止めて見上げました。
「ハレー彗星」という名前はない
この星に、正式な名前はありませんでした。
人々は、
- 客星(きゃくせい)
- 妖星(ようせい)
- ほうき星
そう呼びます。
「客星」とは、
突然やって来て、勝手に去る星。
歓迎されない来訪者――
その言葉どおりの存在でした。
瓦版が不安を煽る
不安は、すぐに紙になります。

江戸の速報メディア、瓦版です。
「怪星、夜空に出現」
「大凶の兆しか」
「戦乱・疫病の前触れか」
根拠はありません。
しかし、人々は買いました。
怖いから。
何が起こるのか、知りたかったからです。
庶民の反応は「理解」ではなく「納得」
重要なのは、
江戸の人々が理解しようとしたわけではないことです。
彼らが求めたのは、
「なぜ起こるか」ではなく、
「何が起こるか」。
彗星は原因ではありません。
**これから起きる災いの“予告”**として受け止められました。
そして、ちょっと変な武士が現れる
噂の中には、こんな話も混じります。
「あの星を斬れば、災いは止まる」

真剣に空を睨み、
刀を構え、
彗星に向かって叫ぶ。
今なら笑い話ですが、
当時はそれほど現実と非現実の境が揺らいでいたのです。
彗星は、何事もなく去った
数週間後。
あの星は、
ある晩を境に――
消えました。
戦は起きない。
疫病も来ない。
町は、昨日と同じ朝を迎える。
そこで、庶民は戸惑います。
「……あれ?」
残ったのは「腑に落ちなさ」

何も起こらなかった。
それが、
一番、腑に落ちない。
あれほど騒ぎ、
怯え、
祈ったのに。
夜空には、ただ星が戻っただけ。
人々は首をかしげ、
互いの顔を見合わせ、
それ以上、深く考えることをやめました。
江戸の人々にとって彗星とは
彗星は――
敵でも、神でも、現象でもない。

「世界が少しズレた気がする合図」
それに近い存在でした。
説明できない。
しかし、無視もできない。
だから恐れ、
だから騒ぎ、
そして、忘れていく。
現代から見ると

現代の私たちは知っています。
それが周期的に訪れる彗星であり、
人の運命とは無関係だということを。
けれど、
1759年の江戸の夜空では――
一本の尾を引く光が、人の心を確かに揺らした。
それだけは、間違いありません。










