猿神退治(武士が討伐する系統)|裁かれても消えなかった神を描く日本の民話
神は、いつも救ってくれる存在とは限りません。
恐れられ、従わされ、ときに人を傷つける神もいました。
それでも人々は、
それらを消すことなく、
祀り続けてきたのです。
「猿神退治」は、
裁きと記憶が同時に残る、
日本民話の中でも異色の一話です。
猿神退治

昔、山と田に囲まれた小さな村がありました。
その村では、古くから**猿神(さるがみ)**と呼ばれる存在が祀られていました。
猿神は、山から現れる猿の姿をした神で、
怒らせると祟りをなすと恐れられていました。
村人たちは、
畑の実りが減れば猿神の怒り、
病が流行れば猿神の祟りと考え、
供物を捧げ、社を建て、頭を下げて暮らしていたのです。
猿神の横暴
しかし、時が経つにつれ、
猿神の振る舞いは次第に横暴になっていきました。

夜になると村に現れ、
人家を荒らし、
作物を奪い、
ついには若い娘を狙うようになったといいます。

それでも村人たちは、
「神だから仕方がない」
「怒らせてはならない」
と、声を上げることができませんでした。
恐怖と沈黙の中で、
猿神はますます力を振るうようになっていきました。
外から来た者
ある日、村に旅の武士が立ち寄りました。
村の様子がどこか怯えていることに気づいた武士は、
事情を尋ねます。

村人たちは最初、口を閉ざしていましたが、
やがて意を決し、猿神のことを語りました。
武士は静かに聞き終えると、こう言いました。
「それは、神ではない。
人を苦しめるものは、裁かれねばならぬ」
猿神退治
夜。
武士は山へ入り、猿神が現れるのを待ちました。

やがて、闇の中から現れたのは、
確かに猿の姿をした異様な存在でした。
猿神は人の言葉を操り、
嘲るように笑ったといいます。
武士は迷うことなく刀を抜き、
激しい戦いの末、猿神を討ち倒しました。
山には静けさが戻りました。
それでも、祀られる神
村は救われました。
作物は実り、
夜に怯えることもなくなりました。
しかし――
猿神は消えませんでした。
村人たちは話し合い、
猿神の社を壊すことなく、
そのまま祀り続けることを選んだのです。

「二度と怒らせぬように」
「忘れてしまわぬように」
そうして猿神は、
裁かれた神として、
今も社に名を残しました。
語り継がれる理由
この話は、
単なる怪物退治ではありません。
猿神は確かに退治されました。
しかし、完全に否定され、消されたわけではないのです。
裁かれても、
なかったことにはしない。
そこに、日本の民話らしい感覚があります。
恐怖も、過ちも、
すべてを消すのではなく、
祀ることで制御する。
伝承について
「猿神退治」は、
各地に異なる形で残る日本の民話・伝承です。
共通するのは、

- 神と恐れられていた存在が横暴に振る舞う
- 外部の力によって裁かれる
- それでも記憶からは消されない
という構造です。
これは
「裁き=抹消ではない」
という、日本独特の世界観をよく表しています。
余韻として
正義は、すべてを消し去らない。
恐ろしいものほど、忘れてはならない。
猿神は、
そのことを今も静かに語り続けているのかもしれません。
※早太郎伝説も猿神を倒す物語で、そちらとは別系統のお話しです。










