宇宙は螺旋から生まれた?ドゴン族の創造神アンマの神話と再生の物語
マリ共和国のバンディアガラ断崖に暮らす少数民族、ドゴン族。
彼らには、空を見上げるたびに思い出される、ひとつの壮大な物語があります。
それは、宇宙が螺旋から生まれたという、独特な宇宙の始まりの神話。
この世界を生み出したとされる存在の名は、「アンマ(Amma)」。
今回は、そんなアンマの神話をご紹介します。
世界は「ひとつの種」からはじまりました
昔むかし、まだ何もなかったころ。
空も地も星も、音さえも存在しない、完全な「沈黙の世界」が広がっていました。

そこにただひとつ、アンマという創造神だけがいたのです。
アンマは、何もない空間に小さな種を落としました。
その種は、らせんを描きながらふくらんでいき、やがて宇宙となりました。
ドゴン族はこの種を「ポ(Po)」と呼びます。
「ポ」は、宇宙に広がるすべてのもとのような存在です。
アンマは「手」で宇宙を作ったのではありません。
呼吸と回転によって、静けさの中にリズムを与え、命を吹き込んでいったのです。
星は音楽のように生まれました
アンマが最初に創ったのは、**言葉のもととなる「音」**でした。
音は渦のように広がり、やがて形を持ち、星や生き物へと姿を変えていきました。
このとき生まれたリズムと回転は、今でも宇宙の中に残っています。
たとえば、星の公転、月の満ち欠け、季節の循環。
すべては、アンマが生み出した「宇宙の音楽」の一部なのだと、ドゴン族は信じています。
世界は一度、乱れてしまいました
しかし、アンマが創った宇宙は、最初から完璧だったわけではありません。

アンマは、自分の子として「ノンモ(Nommo)」という存在を生み出しました。
ノンモは水の精霊で、宇宙に秩序や知識をもたらす役割を持っていました。
けれど、その中のひとりがアンマの意志に反し、世界の秩序を乱してしまったのです。
この反逆により、宇宙には混乱と不均衡が広がっていきました。
アンマは「再び、宇宙を創りなおしました」
アンマは悲しみましたが、あきらめませんでした。

彼は再びらせんを描き、秩序を取り戻すために**宇宙を「再創造」**しました。
そして新たにバランスのとれた世界を生み出したのです。
この「二度の創造」は、ドゴン族にとって重要な教えになっています。
世界は一度できあがったら終わりではなく、壊れても、再び立て直すことができるという知恵が込められているのです。
今も残る「宇宙のリズム」
ドゴン族の村では、今も星空の下で語り継がれるこの神話。
宇宙は、ただの物理現象ではなく、音楽のように流れ、呼吸のように動くものだとされています。
- 星はアンマの息
- 川の流れは宇宙のうねり
- そして言葉は、創造の力

そんなふうに世界を見てみると、わたしたちが今いるこの場所も、大きな宇宙の一部であることを、しみじみと感じさせてくれます。
おわりに
創造神アンマの神話は、遠く離れたアフリカの民話でありながら、現代を生きる私たちにも問いを投げかけてくれます。
「世界はどうやって始まったのか?」
「なぜ星は動くのか?」
「混乱のあとの再生とは、どうあるべきか?」
宇宙の鼓動に耳をすませてみたくなる、そんな物語でした。
参考文献
- Marcel Griaule & Germaine Dieterlen『Le Renard Pâle』(1965)
- Geneviève Calame-Griaule『Ethnologie et langage』(1965)
- Walter van Beek「Dogon Restudied」(1986)









