お盆に海に入ってはいけない理由とは？全国に伝わる禁忌と怖い話の背景
お盆の海には入ってはいけない――その理由を知っていますか？
お盆の時期になると、「海や川に入ってはいけない」と大人たちから言われた記憶のある方も多いのではないでしょうか。
この禁忌は、単なる古い迷信ではなく、日本の文化や死生観、そして地域の体験に根ざした深い意味があります。
お盆の禁忌
お盆は、亡くなった人の霊がこの世に戻ってくる特別な期間です。先祖の霊を迎え、共に過ごし、送り出す――
日本各地で精霊流しや灯籠流しなどの行事が行われるのはそのためです。
そして、海や川といった水辺は、古くから“あの世”と“この世”の境界として特別な意味を持ってきました。
つまり、お盆の海とは、先祖の霊だけでなく、まだ成仏していない霊や、水死者の魂が集まる“霊の場”とも考えられてきたのです。
各地に残る言い伝えと実話
たとえば、東北地方では「お盆に泳ぐと水子の霊に足を引かれる」と語られ、
新潟や山形の日本海側では、穏やかだった海が突然荒れて人をさらう「盆波（ぼんなみ）」が恐れられています。
沖縄では旧盆にあたる時期に、「フナヤーグヮー」という海の霊的存在が人を誘うという伝承もあります。
九州地方では、「送り火を終える前に泳ぐと、帰っていない霊に連れていかれる」と戒められています。
実際に、お盆中の海水浴で不思議な事故が起きたという証言も少なくありません。
千葉県・九十九里浜では、ある高校生が穏やかな海で突然沈み、数日後に遠く離れた場所で遺体が見つかったという話が語り継がれています。
服や浮き輪がそのままだったにもかかわらず、なぜ人だけが消えたのか――地元では今も「盆の海には霊がいる」とささやかれています。
水辺と死者――日本人の感覚
日本文化において、水は「あの世との境界」とされてきました。
橋や川、海は“向こう側”と“こちら側”を分ける場所であり、特にお盆の時期には、その境が曖昧になると考えられてきました。
もちろん、現代的には、お盆の時期は潮の流れが変わりやすく、海難事故が多くなるタイミングでもあります。
昔の人々は、こうした自然現象を“霊に引かれる”という形で語り継ぐことで、子どもたちを守ってきたのかもしれません。
まとめ
「お盆に海に入ってはいけない」という言い伝えは、ただの迷信ではありません。
そこには、先祖への敬意、死者との距離感、自然への畏れ、そして地域社会の記憶が込められています。
毎年お盆が近づくたびに思い出されるこの禁忌。
海や川の楽しさの陰に、静かに流れる人々の祈りと畏怖の心を、少しだけ感じてみてはいかがでしょうか。
