命を懸けて姫を守る若者と三人の魔女たち|ブルガリアに伝わる勇者の民話
はじめに|創作ではなく、確かに語り継がれた伝承
この物語は「ブルガリアを中心とした東欧の伝承型」に属する実在の民話です。
明確な書名では「The Youth and the Witches(魔女たちと若者)」などで知られ、民話研究家アンゲル・カラリチェフ(Angel Karaliychev)の『Bulgarian Folktales(ブルガリア民話集)』にも類話が収録されています。
序章
昔々、ブルガリアのある国に、美しい王女が魔女にさらわれ、森の奥深くに幽閉された。王も民も嘆き悲しんだが、誰ひとり助け出せなかった。
そこへ一人の貧しい若者が名乗り出た。
「私にお姫様を助けさせてください」
誰もが笑ったが、王は言った。
「魔女の三つの試練を超え、娘を救出できたならば、娘を嫁にやろう」
そして若者は姫を救出すべく、森へ向かいました。
そこには3人の恐ろしい魔女が待ち受けていたのです。
第1の試練:夜の魔女と“光”の試練

夜になると森に現れる最初の魔女は、闇と眠りの魔女。
彼女は若者に言う。
「夜が明けるまで、この火を絶やさぬことができたら通してやろう」
魔女は風を呼び、雨を降らせ、獣を送り込む。だが若者は灯火を抱き、必死に守り抜いた。
朝、魔女は姿を消し、若者の前に道標のランタンが落ちていた。
第2の試練:幻の魔女と“迷い”の試練

次なる魔女は、幻覚を見せる魔女だった。
若者は木々の間を彷徨い、死んだ母の姿や姫の幻影に惑わされる。
だが、母が語っていた「真実は冷たい光を持つ」という言葉を思い出す。
若者は幻の姫に微笑まず、冷たいランタンの光で照らすと幻は霧と消えた。
魔女は敗れ、森に一条の道が現れた。
第3の試練:最後の魔女と“選択”の試練
最後の魔女は、姫に変身して若者を試す。
「私を救って、二人でここを出ましょう」
と姫が囁く。だが若者は気づいていた。
「お姫様なら、あのネックレスをしているはずだ」

そして彼は叫んだ。
「姫よ、私を信じて後ろに!」
すると、本物の姫が背後の牢の中から手を伸ばし、偽物の魔女は正体を現し燃え尽きた。
結末:王女の救出と帰還

魔法は解け、森は静けさを取り戻した。
若者は姫を抱えて村へ戻り、人々の歓声に迎えられた。
王は約束通り、姫を若者に嫁がせ、国中が祝福に包まれたという──。
この伝承の意味と魅力
この物語は、**姿を変えてヨーロッパ各地に伝わる話型(ATU 300番台)**のひとつです。
ブルガリアでは「三人の魔女」や「三つの試練」がよく語られ、RPG的な試練・判別・変身・選択が鮮明に描かれています。
- 「試練」と「判断」が肝で、現代のゲーム的構造の源流にも重なります。
- 若者が“力”ではなく“知恵”と“誠実さ”で勝ち抜く点も重要です。







