役行者と水神の伝説|奈良・明神池に伝わる白龍と祈祷の物語
奈良県吉野郡下北山村の深い山あいに、「明神池(みょうじんいけ)」と呼ばれる神秘的な池があります。
この池には、白龍が棲むと伝えられ、古くから“水神”として人々の信仰を集めてきました。
そんな明神池には、一人の修験者が深く関わっているという伝説があります。
その名は――役行者(えんのぎょうじゃ)。
今回は、修験道の祖である役行者と、明神池にまつわる水神伝説についてご紹介します。
修験道の祖・役行者とは?
役行者(本名:役小角/えんのおづぬ)は、飛鳥時代に実在したとされる伝説的な修験者です。
霊山での厳しい修行を通じて、自然と神仏の力を体得し、人々を導いたとされます。

- 吉野・熊野・大峯山などを拠点に修行
- 鬼神を使役したという伝説(前鬼・後鬼)
- 弘法大師や空海と並び称される霊的存在
- 日本の山岳信仰「修験道」の開祖とされる
とにかく“山の霊力”を象徴する人物であり、現在も多くの霊場で祀られています。
明神池に伝わる「水神の怒り」と祈祷の物語
ある年の夏。
役行者が修行の旅で下北山村を訪れたとき、村人たちは彼にこう訴えました。

「近くの池が夜ごとに唸り声を上げ、水が激しく波立つのです」
「何かが起きるのではと、皆おびえています」
役行者は池のほとりに立ち、その気配を感じ取ります。
どうやら、水神が怒っているらしい――
彼はその場に腰を下ろし、三日三晩、飲まず食わずで祈りを捧げました。
すると、荒れていた水面は静まり返り、池は再び穏やかさを取り戻したといいます。
その後、村人たちは水神に感謝し、池のほとりに社を建てました。これが現在の**池神社(いけじんじゃ)**のはじまりです。
明神池に伝わる「七不思議」
この池には、昔から不思議な言い伝えがいくつも残されています。地元では「明神池の七不思議」と呼ばれています。
- 池には出入口の川がないのに、常に水が満ちている
- 石を投げると、必ず雷雨が起こる
- 池の魚や亀を殺すと、祟りに遭う
- 水柱が立ちのぼる現象がある
- 白龍の姿が池に現れることがある
- 夜になると池から音がする
- 御神木を伐ると、怪異が起きる
実際、1990年代にも「水柱を見た」「白い蛇が浮かんでいた」という証言が複数残されており、現代でも地元の人々のあいだでは語り草となっています。
修験の霊地として
明神池は、単なる自然の池ではありません。
この地は、役行者が開いた「大峯奥駈道」の流れをくむ修験の道の一部でもあり、多くの修験者がこの池の前で身を清め、山に向かっていったとされています。
今でも池神社では神事が行われ、神聖な場所として守られ続けています。
おわりに
夏の夕暮れ、蝉の声に包まれた森の奥。
静かにたたずむ明神池は、千年以上の時を超えて、今もなお“祈りの力”と“自然の神秘”を伝え続けています。

役行者がこの地で祈ったように、わたしたちもまた、目に見えない力に向き合い、自然とともに生きる心を思い出したい――
そんな気持ちにさせてくれる場所です。
📍アクセス情報(池神社)
- 所在地:奈良県吉野郡下北山村上池原
- 池神社と明神池は、村の中心部から車で約15分
- 夏はとくに緑が深く、幻想的な光景が広がります








