迷い家(まよひが)の伝説|東北に伝わる“異界の家”と福をもたらす不思議な話
迷い家(まよひが)とは?――“この世”のはずれにある異界の家
「まよひが」とは、山や谷で道に迷った者だけがたどり着ける、不思議な家や集落のことです。
日本の民話、とくに東北地方(岩手・青森など)に多く伝わっており、人の姿は見えないのに整った家財が揃い、食事が用意され、猫や鶏が飼われているとされます。
しかしその家は、元の道に戻ってしまえば二度と見つけることができない「異界」のような場所とされています。
『遠野物語』に登場するまよひが
この迷い家の話は、柳田國男の『遠野物語』(1910年)にも登場します。
◉ 有名なエピソード:
ある猟師が山中で道に迷い、見知らぬ一軒家に泊まった。
家には誰もいないが、火が焚かれ、食事も整っている。

翌朝、白猫が一匹いたので猟師はそれを連れて帰った。
すると家は大いに栄え、運が開けたという。
しかし、二度とその家には戻れなかった――
このように、まよひがに出会うことは「福にあずかる」ことでもあり、異界との邂逅とされています。
🌿 まよひがの特徴
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 現世との断絶 | 戻ろうとしても見つからない。夢か幻のような存在。 |
| 豪奢な家 | 屋敷は立派で整っており、道具や食器もそろっている。 |
| 人の気配はあるが姿はない | 調理の煙や湯気、音などはあるが人間は見えない。 |
| 持ち帰りが福を呼ぶ | まよひがの猫・器・鶏などを持ち帰ると幸福が訪れる。 |
| 無欲さが鍵 | 欲を出さず、丁寧に接すると福が得られる。 |
🔍 民俗学的な解釈
まよひがは、民俗学的には以下のように解釈されています。
- **「隠れ里」や「常世(とこよ)」**の一種
- 山の神の領域や死者の世界との境界
- 「正しい者にのみ福を与える試練の場」としての意味
- 「神の領域に足を踏み入れること」への戒めと希望の象徴
つまり、まよひが=境界に存在する“福”の試練場ともいえるでしょう。
現代における“まよひが”的な感覚

- 山奥でふと感じる「人の気配」
- 誰もいないはずの場所で感じる温かさや懐かしさ
- 現実と非現実のあわいに立ったような不思議な感覚
こうした感覚を抱いたとき、あなたももしかすると“まよひが”の門前に立っているのかもしれません。
✅ まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 迷ひ家(まよひが) |
| 地域 | 岩手・青森など東北地方に多い |
| 性質 | 異界、福の家、試練と贈り物 |
| 民俗的意味 | 常世・隠れ里・神域の象徴 |
| 文献 | 柳田國男『遠野物語』、各地の口承伝承 |
もし、あなたが知らない山道を歩いていて、ふと風に乗って「おいで」と呼ばれた気がしたら――
それは、迷ひ家があなたを試しているのかもしれません。








