コーヒー起源の民話:ヤギ飼いカルディの発見 ― 世界が眠りから覚めた日
コーヒーの起源は様々あります。今回はその一つ、エチオピアのカルディをご紹介します。
ヤギ飼いカルディの発見 ― コーヒーのはじまり
■ はじまりの物語
むかしむかし、エチオピアの山あいに、カルディという若いヤギ飼いがいました。
彼は毎日、陽の光がさす丘でヤギたちを放ち、笛を吹いて過ごしていました。

ある日のこと。
カルディはふしぎな光景を目にします。
ヤギたちが、見たことのない赤い実を食べたかと思うと、急に飛び跳ね、まるで踊るように元気になったのです。

一匹、二匹、三匹――皆が丘を駆けまわり、夜になっても眠らずに鳴き続けました。
「これは、いったい何の実だろう?」
カルディは好奇心にかられ、その赤い実を口にしてみました。
すると、胸の中に力が湧き上がり、眠気が吹き飛んだのです。
その夜、彼は目を輝かせながら笛を吹き続け、明け方まで眠ることができませんでした。
翌日、カルディはこの不思議な実を、近くの修道院の僧侶に持っていきました。
ところが僧侶はそれを「悪魔の実だ」と怒って、火に投げ込みました。

すると、焙られた実から立ちのぼった香ばしい香りが、部屋中に広がります。
その香りに心を奪われた僧侶たちは、残った実を煮出して飲んでみたのです。
そして――
長い夜の祈りの間も、眠気に打ち勝てるようになりました。
それが、のちに「コーヒー」と呼ばれる飲み物のはじまりだといわれています。
■ 史実と背景
この伝説は9世紀ごろのエチオピア・カッファ地方を舞台に語られています。
「コーヒー(coffee)」という言葉自体も、この**カッファ(Kaffa)**という地名に由来するという説があります。

エチオピアでは、コーヒーは単なる飲み物ではなく、**“神と人、人と人をつなぐ儀式”**の象徴です。
今でも家庭では「コーヒーセレモニー」と呼ばれる儀式が行われ、豆を焙煎し、香りを分かち合い、祈りを捧げながら三杯のコーヒーを飲み交わします。
これは「第一杯が友情、第二杯が尊敬、第三杯が祝福」を意味するといわれています。
■ 民話が伝えること
カルディの物語は、単なる偶然の発見譚ではありません。
それは「観察する心が新しい世界をひらく」という教えでもあります。
ヤギの小さな変化に気づいた青年の好奇心が、やがて世界中を変える文化を生み出したのです。

カルディの名は、現代のコーヒーブランド「カルディコーヒーファーム」にも受け継がれています。
コーヒーを一口飲むとき――その香りの奥には、あの丘で跳ねるヤギたちの姿と、若きカルディの驚きが息づいているのかもしれません。






