イワン少年とババ・ヤガー｜魔法の馬と森の試練を描くロシア民話
ロシア民話の中でも、とりわけ冒険心あふれる若者が登場するお話があります。その名はイワン。ロシアの昔話では、勇敢でちょっと無鉄砲なイワンという名の青年がよく主人公を務めます。今回の物語も、そんなイワンのひとりが主人公です。
魔法の馬を探して
ある国に、イワンという若者がいました。ある日、王様から「隣国との戦いに備えて、誰にも乗りこなせない“魔法の馬”を見つけてまいれ」と命じられます。
イワンは旅に出ますが、その馬の居場所など誰も知りません。村人たちに聞いてもわからず、やがて彼は言い伝えを思い出します。
「森の奥の“鶏の足の上に立つ家”……そこに住むババ・ヤガーなら、何でも知っている」
そうして、彼は恐る恐るババ・ヤガーの住む深い森へと足を踏み入れるのです。
ババ・ヤガーの小屋
暗い森の中、鶏の足でぐるぐると回る不思議な小屋を見つけたイワン。中には、恐ろしい姿をした魔女ババ・ヤガーがいました。
「ふん、よく来たね。火のない心臓を持った者よ。おまえを食べてやろうか、それとも働かせてやろうか？」
イワンは平伏し、「魔法の馬のありかを知りたいのです」と願い出ます。
するとババ・ヤガーはにやりと笑って言いました。
「その代わり、私の課題を三つこなすのだ。一晩でできなければ、おまえを骨にして鶏の餌にするよ」
不可能な課題と森の助け
イワンに与えられたのは――
- 森にまかれた麦の粒をすべて集めよ
- 家の周りを囲む蛇の皮をすべて磨け
- 鉄でできた馬を一晩で鍛え上げよ
常人では到底不可能な内容でしたが、イワンは森の精霊たちや動物たちの助けを受けながら、誠実に課題をこなしていきます。
実は、ババ・ヤガーの課題は“力”よりも“心”を試すものでした。怠けず、逃げ出さず、感謝を忘れずに行動したイワンは、すべての課題を見事に果たします。
魔法の馬とイワンの帰還
ババ・ヤガーは驚きました。
「ほう……ただの若造と思ったが、見どころがあるようだね」
そして魔女は、イワンに一頭の銀のたてがみを持つ馬を与えました。それは空を駆け、どんな敵からも逃れられる魔法の馬でした。
イワンはその馬に乗って王国へと帰還し、勇者として迎えられたといいます。
おわりに：試練をくぐる“知恵と誠実”の物語
「イワン少年とババ・ヤガー」の物語は、恐ろしい魔女に立ち向かうだけの話ではありません。
- 真面目さ
- 森との調和
- 助けを素直に受け入れる心
これらがババ・ヤガーの試練を超える鍵となるのです。
ババ・ヤガーは「試練を与える古き存在」として、知識や力を授ける母なる存在でもあります。彼女の怖さは、“自分自身が試される怖さ”なのかもしれません。
