「播州皿屋敷」とは?姫路城に伝わる幽霊伝説の真実と“お菊の井戸”の謎
「一枚…二枚…」
皿を数える声が井戸の奥から聞こえてくる――
そんな怪談を耳にしたことがある方も多いでしょう。けれど、その“原点”がどこにあるのか、ご存じでしょうか?
実はこの話、江戸の「番町皿屋敷」ではなく、**兵庫県姫路市に伝わる「播州皿屋敷」**が最も古いとされています。
今回は、ゾッとするだけでなく、深い悲しみを湛えたこの伝説をひもといてみましょう。
姫路城の下に響く声 ― 播州皿屋敷のあらすじ
舞台は江戸時代以前、播磨国(現在の兵庫県姫路市)にある姫路城の城下町。
家老・青山主膳の屋敷に、忠実で美しい女中「お菊」が仕えていました。
ところがある日、主膳の家宝である十枚揃いの皿のうち一枚がなくなってしまいます。誰が見ても濡れ衣であるにもかかわらず、お菊は責任を取らされます。
主膳は怒りに任せて――あるいは罠にかけて――
お菊を屋敷の井戸へ突き落とし、殺してしまいました。
その日から、夜になると井戸の中から声が響くのです。
「一枚…二枚…三枚……九枚…十枚……あれ? 一枚足りない……」

哀しみと無念がこもったお菊の声は、毎晩のように井戸から聞こえてくるようになり、町の人々はその恐ろしさに震えました。
本当にある?「お菊井戸」
この話は作り話ではありません。姫路城の敷地内には、現在も「お菊井戸」が存在しています。
直径は約2メートル、深さは20メートル以上とされ、現在も城の観覧ルートで見ることができます。
井戸の脇には、きちんと案内板が設置されており、観光客に向けて「播州皿屋敷」の由来が紹介されています。
また、地元の人々の間でも「夜に井戸に近づくと声が聞こえる」という言い伝えが続いており、心霊スポットとして扱われることもあるのです。
江戸の「番町皿屋敷」との違い
「皿屋敷」と聞いて東京・番町を思い浮かべた方もいるかもしれません。実はこの怪談には2つのバリエーションがあり、播州版が元祖であるとも言われています。
項目 | 播州皿屋敷 | 番町皿屋敷 |
---|---|---|
舞台 | 姫路城 | 江戸・四谷番町 |
ヒロイン | お菊(武家奉公人) | お菊(中間または町娘) |
死因 | 井戸に突き落とされる | 拷問、自害、斬首などさまざま |
背景 | 家宝の皿の紛失(陰謀含む) | 主人の嫉妬、策略、誤解など複雑化 |
展開 | 幽霊となって皿を数え続ける | 芝居化され、怪談劇として発展 |
江戸の番町版は芝居や講談で人気を集め、「幽霊話」の代表格として定着しましたが、原形は地方に根差した播州の話だったのです。
怨霊か、悲しみか ― 「皿を数える声」の意味
お菊が皿を数える声には、どこか「儀式」のような静けさがあります。
ただ人を呪うだけの怨霊ではなく、自分の冤罪を何度も確かめるかのように――
「十枚あったはずなのに、なぜ一枚足りないの?」

この声は、現代を生きる私たちにも問うているように感じられます。
「理不尽な仕打ちに対して、誰かが声を上げねばならない」という強い意志。
その想いが、夜の井戸から今もそっと響いているのかもしれません。
まとめ:お菊の声が今も聞こえる、姫路城の怪談
播州皿屋敷は、ただの怖い話ではありません。
悲しみ、冤罪、女性の声なき声――それが形を持った幽霊譚なのです。
もし姫路を訪れることがあれば、ぜひ「お菊井戸」を覗いてみてください。
その深い闇の底から、「一枚…二枚…」という静かな声が、聞こえてくるかもしれません。