グリモワールとは?悪魔を使役する魔術書の実在と歴史を読み解く
“魔導書”というと、ファンタジーの世界のもののように聞こえるかもしれません。
しかし中世ヨーロッパでは、実際に**悪魔と契約し、使役するための手引書=グリモワール(Grimoire)**が存在していました。
この記事では、その実在の魔術書と、記された内容・背景思想・代表的な書物についてご紹介します。
グリモワールとは何か?
「グリモワール」とは、魔術の儀式や呪文、召喚術の手順を書いた書物のこと。語源はフランス語で「文法(grammaire)」と同じく、“秘められた知識体系”を意味します。

一般的には次のような内容を含みます:
- 悪魔や精霊の召喚方法
- 使役のための契約手順
- 護符や魔法陣の描き方
- 日・時間・星位の選び方
- 術者を守るための祈祷や浄化法
グリモワールが生まれた背景
中世〜ルネサンス期のヨーロッパでは、キリスト教の権威の影で、古代ギリシャ・ローマ、ユダヤ教(カバラ)、イスラム科学などが混ざり合った秘教的知識体系が一部で継承されていました。
その中で、「神の名により悪魔すら支配できる」という発想が生まれ、グリモワールに記録されていったのです。悪魔にとっては不公平な感じがしますね。
✅ポイント:
グリモワールの術者は“悪魔に魂を売る”わけではなく、むしろ神の力で悪魔を従わせる存在として描かれています。
代表的なグリモワール
以下は、実際に現存・翻訳されている代表的な魔術書です。
■ 1. ゴエティア(『レメゲトン』の第1部)
- 成立:17世紀 イギリス
- 内容:ソロモン王が使役したとされる72柱の悪魔の名前・階級・召喚法を記載
- 特徴:召喚円、魔法陣、印章、対応惑星などが詳細に記されている
■ 2. グラン・グリモワール(大奥義書)

- 成立:18世紀 フランス
- 内容:悪魔「ルキフゲ・ロフォカレ」と契約を結び、下位の悪魔を使役する方法
- 特徴:道具(黒ミサ用ナイフや書板)、供物、契約の文章までも明記
■ 3. アブラメリンの書

- 成立:14〜15世紀 ドイツ語圏
- 内容:まず守護天使と交信し、その加護を得てから悪魔を召喚・支配するという段階的魔術体系
- 特徴:魔術の倫理や節制が重視される“高位魔術”として扱われる
なぜ人は悪魔を使役しようとしたのか?
グリモワールに記された術の目的は多岐にわたります。その見返りの大きさに人は心を奪われ、悪魔の力を求めるのです。

- 財宝・富の獲得
- 望む人物を操る
- 空を飛ぶ・姿を変える
- 隠された知識を得る
- 神への接近(神秘思想)
ただし、使役には厳格な儀式・準備・精神的修行が求められ、「欲望まかせの魔術師は堕落する」と警告されることも多いのが特徴です。
現代に伝わる影響
現代でもオカルトや西洋魔術(エソテリック・オーダー)の世界では、グリモワールは研究対象として人気があります。
- ゲームや漫画の魔導書描写の原型となる
- ゴシック文化・黒魔術美術・占星術の参考資料
- 一部の秘教団体では実践書としての使用もある
まとめ:禁書に宿る人間の“力への欲望”と“秩序への信仰”

グリモワールとは、単なるオカルト本ではありません。
そこには、力を得ようとする人間の欲望と、それでも秩序を守ろうとする律しきれぬ信仰心が交錯しています。
ページをめくるごとに現れる“召喚円”や“禁忌の名”は、かつて本気で世界の真理に触れようとした人々の、静かな祈りと恐れの証なのです。