神に見放された街・ソドムとゴモラ ― 聖書が語る傲慢と滅びの真実
かつて、ヨルダン川のほとりに二つの豊かな都市がありました。
その都市の名はソドムとゴモラ――
肥沃な大地に恵まれ、人々は贅沢と快楽を謳歌していたといいます。
しかし、繁栄の影で、人々の心は次第に傲慢と欲望に染まっていきました。
他者を顧みず、弱き者を踏みにじり、快楽と権力に酔いしれる日々。
その姿は、もはや人の形をした“罪”そのものだったのかもしれません。
やがて、天は沈黙を破ります。
神は二人の使者を地上に遣わし、最後の審判を告げました――
「この街の叫びは、天にまで届いている」と。
※天空の城ラピュタで、ムスカが言っていたソドムとゴモラはこの話のことです。
第一章：天使たちの訪れ
ある夜、二人の天使が人の姿でソドムを訪れました。
正しい心を持つロトは、彼らを自宅に迎え入れ、宿を提供します。
しかし、その様子を見た町の男たちは家を取り囲み、叫びました。
「その客人を差し出せ。我々は彼らを“知りたい”のだ。」
それは単なる好奇心ではなく、支配と侮辱を目的とした暴力の言葉でした。
彼らは他者を客人としてではなく、玩具として扱おうとしたのです。
――もはや人の尊厳など、彼らの中には残っていませんでした。
天使たちはロトを守り、群衆を盲目にし、こう告げます。
「この街は滅びる。家族を連れて、今すぐ逃げなさい。」
第二章：炎と硫黄の雨
夜明け前、ロトは妻と二人の娘を連れ、街を離れました。
天使は言いました。
「決して、後ろを振り返ってはならない。」
しかし――
逃げる途中、ロトの妻は燃え上がる街を振り返ってしまいます。
その瞬間、彼女は塩の柱に変わりました。
やがて、天から硫黄と火が降り注ぎ、
ソドムとゴモラは跡形もなく焼き尽くされます。
かつて豊かだった大地は、不毛の死の谷と化しました。
第三章：神の怒りの本質
人々は「性の乱れ」や「罪深さ」をこの物語の象徴と語ります。
けれども、神が怒ったのは快楽そのものではありません。
預言書『エゼキエル書』にはこう記されています。
「ソドムの罪はこれである――高慢、食物の満ちあふれ、安逸の中にありながら、
貧しい者や苦しむ者を助けなかった。」
つまり神が裁いたのは、
他者への思いやりを失い、暴力と傲慢に支配された心でした。
“性の乱れ”とは、肉欲の問題ではなく、
人間の尊厳を踏みにじる支配と無関心の象徴だったのです。
第四章：現代への警鐘
もしこの物語を現代に置き換えるなら――
それはSNSで他人を攻撃し、
貧困や苦しみに目を背ける社会の姿にも重なります。
私たちは、いつの間にか「自分の幸せ」だけを追い求め、
他者の痛みに鈍感になっていないでしょうか。
天から火が降らずとも、
人の心が荒れ果てれば、その場所もまた「ソドムとゴモラ」なのです。
終章：塩の柱の向こうに
死海のほとりに立つと、風に塩の結晶が舞い上がります。
そこは、かつてソドムとゴモラがあったと伝えられる場所。
すべてを焼き尽くした炎の跡は、今もなお「沈黙の証」として残っています。
神が怒ったのは、欲望そのものではなく――
人の心が、他者への思いやりを失ったことでした。
罪とは、天を目指すことではなく、
隣人を見下ろすことから始まるのかもしれません。
滅びの物語は、決して過去の出来事ではありません。
私たちが他人の痛みに鈍感になるとき、
ソドムとゴモラの炎は、静かに今も燃えているのです。
