悪魔に恋した村娘 ― セルビア民話「ベスと娘」|井戸の底に消えた恋の伝承

悪魔のような恋とは言いますが、悪魔と恋に落ちる話しは古くから存在します。今回はスラヴ民話からベスと娘をご紹介します。

悪魔に恋した村娘 ― セルビア民話「ベスと娘」

1. 井戸のそばで

昔、セルビアの山あいの村に、金色の髪をした若い娘が住んでいました。
ある夏の夜、娘が井戸で水を汲もうとしたとき、
水面の下からやわらかな声が聞こえてきました。

「夜風が冷たいね、娘さん。」

ChatGPT-Image-2025年10月16日-04_37_23-1024x683 悪魔に恋した村娘 ― セルビア民話「ベスと娘」|井戸の底に消えた恋の伝承

驚いて顔をのぞきこむと、水面に一人の青年が映っていました。
黒い髪に白い肌、月のように光る瞳。
青年は「ベス」と名乗り、夜ごと井戸のほとりに現れるようになりました。

娘はいつしか、彼の声を待つようになります。
母が呼んでも、夜の井戸のほうを向いて微笑んでいました。


2. 秘密の求婚

ある晩、ベスは娘に言いました。

「君を愛している。
もし僕を受け入れてくれるなら、
永遠に君を守ろう。」

ChatGPT-Image-2025年10月16日-04_37_17-1024x683 悪魔に恋した村娘 ― セルビア民話「ベスと娘」|井戸の底に消えた恋の伝承

娘はためらいながらも頷きました。

ベスは嬉しそうに、井戸の奥から金の指輪を差し出しました。

「婚礼の日にはこの指輪をつけてきて」

と言い残し、朝日が昇る前に消えていきました。


3. 教会での婚礼

婚礼の日、村中が集まりました。
娘は白いドレスをまとい、指にはあの金の指輪をはめていました。

ChatGPT-Image-2025年10月16日-04_37_13-1024x683 悪魔に恋した村娘 ― セルビア民話「ベスと娘」|井戸の底に消えた恋の伝承

青年――ベス――は人間の姿で現れ、誰もがその美しさに息を呑みました。
しかし神父が十字架を掲げ、「主の御名において」と唱えたその瞬間、
青年は苦しそうに叫び、身体が黒い煙に包まれました。

「この光は……僕を焼く……!」

ChatGPT-Image-2025年10月16日-04_37_09-1024x683 悪魔に恋した村娘 ― セルビア民話「ベスと娘」|井戸の底に消えた恋の伝承

娘が手を伸ばす間もなく、ベスは煙となって消え、
指輪だけが床に落ちました。


4. 井戸の底から

その後、娘は誰とも言葉を交わさなくなりました。
夜になると、井戸のそばに立ち、そっと水面をのぞきこみました。

ある晩、村人たちは彼女の姿が見えないことに気づきました。
井戸をのぞくと、水面は静まり返り、
底のほうでかすかに金の光が揺れていました。

ChatGPT-Image-2025年10月16日-04_37_03-1024x683 悪魔に恋した村娘 ― セルビア民話「ベスと娘」|井戸の底に消えた恋の伝承

それ以来、その井戸は「悪魔の口(Đavolja Usta)」と呼ばれるようになり、
誰も近づかなくなったといいます。


5. この物語の意味

この物語は単なる怪談ではなく、信仰を離れた愛の行く末や、異界との交わりの禁忌を語る寓話とされています。

ChatGPT-Image-2025年10月16日-04_36_59-1024x683 悪魔に恋した村娘 ― セルビア民話「ベスと娘」|井戸の底に消えた恋の伝承

井戸は「現世と異界をつなぐ穴」として、古くから“境界”を象徴する場所でした。
娘が彼に惹かれたのは、単なる恋心ではなく――“人ならぬ世界への憧れ”もあったのかもしれませんね。地獄で身を焦がすほどの恋を堪能しながら。。。


6. 出典・参考文献

  • Vuk Stefanović Karadžić, Srpske narodne pripovetke(セルビア民話集, 1853)
  • Natalie Kononenko, Slavic Folklore: A Handbook (Greenwood Press, 2007)
  • D. A. Leeming, Slavic Myths (Oxford University Press, 2022)
  • A. J. Glinski, Polish Folktales and Folklore (Hippocrene Books, 2012)

You May Have Missed

Translate »