弘法大師・空海の生涯|密教と日本仏教に与えた影響とは?
弘法大師・空海(774年~835年)は、日本仏教史上において最も重要な人物の一人です。彼は唐に渡って密教を学び、真言宗を開いたことで知られています。
しかし、その影響は仏教にとどまらず、教育、書道、土木事業、さらには日本文化全体に深く根付いています。
本記事では、空海の生涯を振り返りながら、彼が日本に与えた多大な影響について詳しく解説します。
彼がどのように密教を学び、どのような思想を持ち、どのような偉業を成し遂げたのか。
その足跡をたどることで、現代にも通じる彼の教えと精神を紐解いていきます。
弘法大師・空海の生涯とその影響
1. 幼少期と学問への目覚め
弘法大師(空海)は774年、讃岐国(現在の香川県)に生まれました。幼名は佐伯真魚(さえきのまお)。幼少期から聡明で、学問への関心が高く、京へ上り大学寮で儒学や漢学を学びました。しかし、より深い真理を求め、次第に仏教への道を志すようになります。
2. 留学僧として唐へ渡る

804年、遣唐使の一員として中国の唐へ渡り、長安の青龍寺で恵果阿闍梨(けいかあじゃり)に師事しました。恵果から密教の奥義を授かり、日本に帰国するよう命じられます。わずか2年の間に密教の教えを完全に修得し、806年に帰国しました。
3. 日本での密教布教と高野山の開創
帰国後、空海は密教の普及に尽力し、810年には嵯峨天皇から京都・東寺を賜ります。ここを日本密教の中心とし、真言宗を開宗しました。816年には高野山の開創を開始し、後にここが真言密教の総本山となります。高野山は現在も多くの信仰を集める聖地です。
4. 教育と文化への貢献

綜藝種智院の設立
空海は教育にも力を入れ、庶民も学べる「綜藝種智院(しゅげいしゅちいん)」を設立しました。当時の学問は貴族や僧侶に限られていましたが、身分を問わず学問を提供した点は画期的でした。
書道と文学の影響
空海は「三筆」の一人とされ、優れた書家でもありました。「弘法も筆の誤り」ということわざは、彼の書道の技術の高さに由来しています。また、漢詩や和歌にも通じ、仏典の翻訳にも貢献しました。
5. 晩年と入定(にゅうじょう)

晩年の空海は高野山で修行を続け、835年に
「私は死なず、永遠に瞑想を続ける」
と弟子たちに伝え、入定しました。この入定とは、瞑想のまま永遠に生き続けるという考え方であり、現在も高野山奥の院では空海が瞑想していると信じられています。
弘法大師の影響と現代へのつながり
空海の影響は現代にも色濃く残っています。
- 宗教面: 真言宗は現在も広く信仰され、高野山は世界遺産に登録されています。
- 文化面: 書道、仏教美術、建築、教育の発展に大きく寄与しました。
- 思想: 密教の教えや利他の精神は、現代人にとっても学ぶべき点が多くあります。
弘法大師・空海の生涯は、単なる宗教家としてだけでなく、日本の文化や思想に大きな影響を与えました。彼の精神は今もなお多くの人々に受け継がれています。
追記:密教とは?
先程のお話しでも度々でてきた密教(みっきょう)。一体どんな教えなのでしょうか。カンタンにまとめてみました。
密教とは、大乗仏教の一派であり、「秘密の教え」という意味を持つ仏教の一体系です。特に大日如来(だいにちにょらい)を中心とする教えで、空海が日本に伝えた真言密教が有名です。
密教の特徴
- 師から弟子へ直接伝授(口伝)
- 経典を読むだけでは理解できず、師から弟子へ直接伝授される。
- これを「灌頂(かんじょう)」といい、修行者は正式に密教の行者となる。
- 即身成仏(そくしんじょうぶつ)
- 生きたまま仏になることを目指す。
- これは、厳しい修行を通じてこの身のままで悟りを得るという考え方。
- 曼荼羅(まんだら)を用いた修行
- 宇宙の構造や仏の世界を示した**曼荼羅(マンダラ)**を使う。
- 代表的なのが「胎蔵界曼荼羅」と「金剛界曼荼羅」。
- 呪文(真言)の使用
- **「真言(しんごん)」**とは、仏の力を借りるための特別な言葉。
- 例:「オン アビラウンケン」など。
- 空海が伝えた「真言宗」は、この真言を唱える修行が特徴。
- 儀式(加持祈祷)
- 手で印(いん)を結び、呪文を唱え、仏の加護を得る修法。
- 現在も、病気平癒や厄除けの祈祷として行われる。
密教と顕教(けんぎょう)の違い
密教(秘密の教え) | 顕教(開かれた教え) |
---|---|
仏の教えを師匠から直接伝授 | 経典を学べば誰でも理解できる |
真言・印・曼荼羅を用いる | 説法や経典を重視する |
即身成仏が可能 | 長い修行の末に悟りを得る |
日本の密教
日本では、密教には大きく2つの流派があります。
- 真言宗(空海)
- 空海が唐から伝えた密教。
- 高野山を中心に発展。
- **「即身成仏」**を重視。
- 天台密教(最澄)
- 最澄が密教の要素を取り入れた天台宗の一派。
- 延暦寺(比叡山)を中心に発展。
- 顕教と密教の両方を取り入れる。
まとめ
密教は、経典だけでは理解できず、師匠から直接伝授される深遠な教えです。真言や曼荼羅、印を使い、修行者がこの身のままで仏になれる「即身成仏」を目指すことが最大の特徴です。