北欧神話03:オーディンの知識の探求。ルーン文字と片目の犠牲の神話を解説
主神オーディンと知識の探求
神々の王、オーディン
世界が創られ、人間が誕生した後も、神々の時代は続いていました。その中心にいたのは、主神オーディンです。

彼は戦と知識の神であり、アース神族の頂点に立つ存在でした。しかし、オーディンは単なる戦士ではなく、何よりも知識を求める探求者だったのです。
オーディンは未来をも知りたいと知識を求めました。ラグナロク――神々の黄昏――が避けられぬ運命であると知った彼は、その真実を解き明かすため、知識の探求へと乗り出しました。それは、過酷な運命が待ち受ける苦難の旅路でした。
知恵の泉と片目の代償
ユグドラシルの根元には、深遠なる知恵の泉「ミーミルの泉」が湧いていました。その泉の水を飲む者は、この世のあらゆる知識を得ることができます・・・。だが、泉の番人であるミーミルは、ただではその水を与えませんでした。彼はとてつもない事を要求しました。

「この水を飲みたければ、お前の片目を差し出せ。」
流石に拒むと思ったミーミルは、次の瞬間、わが目を疑いました。
オーディンは迷わず自身の片目をくり抜き、泉の水を口にしたのです。
視界の半分を失った代わりに、彼は世界の真理を垣間見ました。
過去、現在、そして未来――運命の糸がどのように紡がれているのかを。彼は自身が渇望した未来の知識を得ることができたのです。
世界の理を記すルーンの文字
知恵の泉を訪れた後も、オーディンの探求は終わりません。彼はこの世のすべての真理を記す方法を求め、ルーン文字の秘密を知ろうとしました。
オーディンは、世界の理を理解するために、驚くべき行動にでます。なんと、彼はユグドラシルの枝に自身を吊るし、槍で自らを貫いたまま、九日九夜を耐え抜いたのです。食べ物も水も口にせず、ただ世界の理を理解することだけを求めました。

そして、ついに彼はルーン文字の秘密を手に入れました。その瞬間、彼の隻眼はかつてない輝きを放ち、世界の理が彼の内に流れ込んできたのです!
「私は真理を見た。私はルーンを手にしたのだ・・・。」
彼の周囲には古代のルーン文字が浮かび上がり、それらが織りなす流れが未来を示していました。その知識をもって、オーディンはアース神族に戦術を授け、魔法の力を広めたのです。そして彼自身もまた、神々の中でも最も賢い存在となったのでした。
詩の蜜酒と知識の拡散
オーディンはさらに、知識を人々にも与えようとしました。そのために必要だったのが、「詩の蜜酒(メズ)」です。この蜜酒を飲んだ者は、知恵と詩の才能を得ると言われていました。
だが、それは巨人スットゥングが守るものであり、簡単には手に入りません。オーディンは変装し、知恵と策略を駆使してスットゥングを騙し、蜜酒を飲み干したのです。

そして、オーディンはワシの姿に変わり、アースガルズへと逃げ帰ります。その途中で少しの蜜酒をこぼしてしまいました。そのわずかばかりの蜜酒が、人間たちにも知識の恩恵をもたらしました。
オーディンの果てなき知識の探求
こうして、オーディンは片目を犠牲にし、苦痛に耐え、知恵をもたらす蜜酒を手に入れました。しかし、彼の探求は決して終わることはありません。彼は常に世界の終末「ラグナロク」に備え、さらなる知識を求め続けたのです。
「知識こそが力であり、未来を知ることこそが戦士の本分である。」
まさに神々の頂点にふさわしい神といえます。
次回:「雷神トールと戦いの神話」へ続く──。