アンデルセン童話「赤い靴」に見る虚栄と罰――少女カレンの悲劇の物語
1.物語のはじまり ―― 赤い靴に憧れた少女
昔、貧しい家庭に生まれた少女、カレンがいました。
母親を亡くし、みすぼらしい服とぼろぼろの靴で暮らしていたカレンは、美しいものに強い憧れを抱いて育ちました。

ある日、上流階級の老婦人が彼女を見かねて引き取り、立派な衣服と暮らしを与えます。
新しい生活の中で、カレンはある日、一足の赤い靴を見つけます。派手で目立つ、今までの自分とは違う世界を感じさせる色。
「これが欲しい」と思ったカレンは、婦人に内緒でその靴を買ってしまいます。
2. 教会でも、通りでも――踊り続ける赤い靴
やがて、カレンはその赤い靴を履いて教会に出かけるようになります。
人々が驚き、非難の目を向けても、彼女はやめられません。
“自分が美しく見えること”こそが、彼女の喜びになっていたのです。

するとある日、彼女が赤い靴を履いたままダンスを始めると、足が止まらなくなりました。
靴は意思を持ったかのように、彼女の体を勝手に動かし、村中を、森を、昼も夜も踊らせ続けます。
3. 罰としての踊り――少女の選んだ決断
もはや食事も休息もとれないまま、踊り続けるカレン。
何日も何日も止まらない彼女は、とうとう処刑人のもとを訪ね、「足を切り落としてほしい」と頼みます。
処刑人は彼女の足を切断し、赤い靴ごと、足は踊り続けて去っていきました。

義足をつけ、懺悔の日々を送るカレンは、ようやく神に赦され、静かに息を引き取ります。
4. 背景とアンデルセンの意図
この話は、H.C.アンデルセンが1845年に書いた寓話で、表面的には宗教的・道徳的な教訓を伝える童話です。
- 当時のデンマーク社会では、虚栄心や身分差を嫌悪する風潮がありました。
- 「教会にふさわしくない装い(=赤い靴)」を通じて、信仰よりも見た目を優先することへの罰が語られています。
- また、アンデルセン自身が社会階級のコンプレックスに悩んでいたことも影響しています。
5. 『赤い靴』が今に伝える教訓
この物語は、単なる「こわい話」ではありません。
- 人が他人の目を意識しすぎて本質を見失うこと。
- 虚栄の欲求がどこまで自分を支配するか。
- そして、罪の意識と悔い改めによって人は救われるという、宗教的な救済観。
現代に生きる私たちにも、「見た目ばかりを追いかける危うさ」を問いかけているようです。