ガリバーは本当に日本に来た?『ガリバー旅行記』に描かれた日本訪問の真相とは
『ガリバー旅行記』といえば、小人の国や巨人の国など、想像を超えた世界を旅する物語――そう思っている方が多いのではないでしょうか。
しかし実は、ガリバーは“実在する日本”にも立ち寄っているのです。
◆ ガリバーの日本訪問はどこで登場する?
ガリバーが日本に来るのは、**第3部「ラピュタ篇」**の終盤です。

空飛ぶ島「ラピュタ」や科学の狂信者たちの国を後にしたガリバーは、ヨーロッパへ帰還するために、東洋の港を転々とし、最終的に日本の「長崎」に上陸します。
物語上、日本は鎖国体制下にある国として描かれ、オランダ人以外は基本的に受け入れられないという設定になっています。
◆ 長崎での“踏絵”の描写とは?
ガリバーが日本に入国するためには、ある「儀式」に参加する必要があります。
それが――
キリストの像を踏んで信仰を否定すること
つまり、**踏絵(ふみえ)**です。
▼ 作中の描写より(要約):

「私は、キリスト教徒ではないことを誓わされ、十字架を踏むよう命じられた。私はそれに従い、無事に入国を許された。」
この描写は、**17〜18世紀の日本の「禁教政策」**をヨーロッパに伝える貴重な風刺として読むことができます。
◆ 歴史との一致:実際の江戸時代の日本
要素 | 現実の日本 | スウィフトの描写 |
---|---|---|
長崎 | 唯一の西洋交易港 | ガリバーが上陸した都市 |
踏絵 | キリシタン弾圧の象徴 | ガリバーも通過しなければならない関門 |
鎖国政策 | オランダ人のみ貿易許可 | オランダ人になりすますことで入国可能に |
この描写から、スウィフトは18世紀のイギリスにおいて日本に関する知識がある程度普及していたこと、またそれを風刺の素材として使うほどの文化的関心があったことがわかります。
◆ 風刺としての「日本」
スウィフトは、現実の制度をそのまま描いたわけではなく、当時のヨーロッパ社会を皮肉るために日本の姿を利用しました。

日本の制度 | 風刺しているもの |
---|---|
踏絵 | 宗教弾圧・偽善的な信仰 |
鎖国 | 狭量な排他主義、選民思想 |
オランダ人だけOK | 政治的妥協や商業主義の滑稽さ |
◆ ガリバー旅行記は、なぜ日本を選んだのか?
18世紀のイギリス人にとって、日本は遠く、謎に満ち、同時に政治的に面白い国でした。
「自由と理性の国イギリス」と対照的な存在として、「禁教・鎖国・統制された社会」の象徴である日本が使われたのです。
◆ まとめ:ガリバーが来た“日本”の意味
ガリバーが日本に来たのは、事実ではなくフィクションです。
しかしその描写には、当時の西洋から見た“異文化”としての日本像が色濃く反映され、さらにその“異文化”を使ってヨーロッパ社会そのものを風刺するスウィフトの鋭さが光っています。
『ガリバー旅行記』は、ただの冒険物語ではなく、こうした文化の相対化と批判精神に満ちた文学なのです。