北欧のゾンビ「ドラウグ」とは?伝承・特徴・サガの実話エピソードを徹底解説
◆ はじめに:死してなお、戦場に立つ者
北欧神話やアイスランド・サガに登場する**「ドラウグ(Draugr)」**は、
単なる幽霊やゾンビではありません。
それは、**死してもなお墓から蘇り、生者を襲う“不死の戦士”**です。
腐敗した身体に超人的な力を宿し、埋葬された財宝を守るために立ち上がるその姿は、中世の北欧世界に生きた人々にとって、最大級の恐怖の象徴だったといわれています。
◆ ドラウグとは何か?
● 定義

ドラウグ(古ノルド語:draugr)とは、死後も肉体に霊魂が宿り続けた亡者を指します。
霊のような実体のない存在ではなく、“動く死体”=ゾンビとして現実に干渉し、生者を傷つける力を持っています。
● 特徴
- 墓に埋葬されたあと、自分の財宝や名誉を守るために蘇る
- 腐った身体でありながら、非常に強い腕力を持つ
- 巨大化することもあり、悪臭を放つこともある
- 生者に嫉妬し、夢の中に現れて呪いをかける
- 実体を持ち、武器を使って戦うこともできる
◆ ドラウグの伝承エピソード
【1】『グレティルのサガ』― 墓の守護者カールとの死闘

北欧の英雄グレティルは、財宝が眠るという古墳に忍び込みました。
そこには、かつての首領「カール(Kárr the Old)」の遺体が葬られていました。
しかし、棺を開けた瞬間に、死んだはずのカールが蘇って襲いかかってきたのです。
その身体は腐っているにもかかわらず、驚くほどの力を持ち、夜しか動かないといわれていました。
「グレティルは斧を振り下ろしました。
しかしその死者はびくともしませんでした。まるで墓そのものが反撃してくるようだったのです。」
幾晩にもおよぶ死闘の末、グレティルはカールを倒し、ようやく財宝を手に入れました。
この物語は、“墓を守る戦うゾンビ”との典型的な戦いとして語り継がれています。
【2】『エイリのサガ』― 村を呪う亡者
ノルウェーのある村で一人の男が亡くなったあと、村人が次々と不審な死を遂げるようになります。
夜になると、扉を叩く音とともに、黒い影が現れるようになりました。
それはなんと、蘇った死者本人だったのです。

「火のような目が暗闇に浮かび、扉の隙間から覗いていました。
それを見た者は、必ず翌朝、冷たくなって発見されたのです。」
村の長老と司祭が墓を掘り返すと、遺体はまるで生きているかのようで、
棺の中で姿勢を変えていたといわれています。
祈祷とともに杭を打ち、塩をまいて再埋葬することで、ようやく村に平穏が戻りました。
◆ ドラウグの倒し方と伝承
ドラウグを鎮めるには、特別な方法が必要とされています。
方法 | 内容 |
---|---|
火葬 | 遺体を完全に焼くことで、蘇りを防ぎます |
海に流す | 水に沈めることで、魂を浄化すると信じられていました |
銀の武器 | 魔的存在に効果があるとされる金属です |
首と胴の分離 | 首を切断して再生を防ぐ方法もあります |
こう見ると、現代のファンタジー作品では定番となった描写ですね。
◆ ドラウグが生まれる理由
- 適切な葬儀が行われなかった
- 強い未練や怒りを抱えていた
- 財宝や地位への執着があった
- 魔術や呪いによって死後に蘇った
といった理由で、ドラウグになると信じられていました。
◆ 現代におけるドラウグ
● ゲームやファンタジー作品での登場
たとえばゲーム『スカイリム(The Elder Scrolls V: Skyrim)』では、
「Draugr」として古代の墓地に登場し、剣を持って生者を襲うアンデッド戦士として描かれています。
このように、ドラウグは現代のRPGにおける“戦うゾンビ”の原型ともいえる存在です。
◆ まとめ:ドラウグとは“北欧の誇り高きゾンビ”
ドラウグは単なる怪物ではなく、死してなお何かを守り、何かに囚われる者です。
その存在は、北欧の人々にとって「死の恐怖」と同時に「名誉や誇りを重んじる精神」の象徴でもありました。

現代のゾンビ像に影響を与えたこの伝承は、
今もなお、ファンタジーやホラーの世界で息づいています。