ザッハークとフェリドゥーンの伝説|ペルシア神話の暴君と英雄の戦い
前回サラッとご紹介したザッハークの物語を、改めて詳しくご紹介します。
とはいっても内容はかなり多いので、この記事内で収まるような展開させてくださいね。また、ここではゾロアスター教に基づく伝承のヴァージョンです。
遥か昔、世界には邪悪な暴君が君臨していた。
その名はザッハーク――黒き蛇を背に持つ恐怖の王。
彼の支配は血と闇に染まり、人々は恐怖に震えていた。
しかし、運命はこの暴虐を許さなかった。
ある予言が語られていたのだ。
「ザッハークの時代は終わる。英雄フェリドゥーンが立ち、暴君を討つであろう」と。
ザッハークの呪い

ザッハークは、もとは王ではなかった。彼はアラビアの王子として育ったが、アーリマンの誘惑により、その魂を売り渡した。ザッハークはアーリマンのささやきに従い、父王を裏切り、その命を奪って王座を手に入れた。
すると、アーリマンはザッハークにさらなる「祝福」を与えた。
王の両肩から二匹の蛇が生え、日々人間の脳を食わねば苦痛に苛まれる呪いがかけられた。
ザッハークは恐怖と狂気に支配され、毎日二人の若者を生贄として捧げるよう臣下に命じた。

この恐怖政治は千年にもわたり続いた。アーリマンから受けた強大な魔力を誇るザッハークに、誰もが絶望するしかなかったのだ。だが、その闇の中で、希望の灯火が生まれつつあった――それがフェリドゥーンの誕生である。
※イスラム圏での解釈はザッハークに近づいたのは、アーリマンではなく、イブリースとなっています。
英雄フェリドゥーンの運命
ザッハークがこの世に君臨してしばらくしたころ、ある夜、彼の夢に奇妙な光景が現れた。夢の中で彼は自らの王座を失い、若き英雄に討たれる幻を見る。
怒りと恐怖に駆られたザッハークは、魔術師を呼び寄せ、その夢の意味を問いただした。
魔術師たちは告げた。

「その若き英雄こそフェリドゥーン。やがて彼はあなたを倒し、世界を正しき道へと導くでしょう。」
ザッハークはただちに配下の軍勢を送り、フェリドゥーンを探し出して殺すよう命じた。

しかし、フェリドゥーンの母はその危機を察知し、彼を山奥の洞窟へと逃がした。そこでフェリドゥーンは聖なる牛の乳を飲みながら成長し、やがて強靭な戦士へと成長した。
反乱の狼煙
ザッハークの暴政はついに限界を迎えた。人々は命を奪われ、食糧は貴族に奪われ、恐怖が支配する世界。しかし、その中で一人の鍛冶師カーヴェが立ち上がる。
カーヴェの息子もまた、ザッハークの蛇の餌食となった。悲しみに暮れる彼は、人々に呼びかけ、ザッハーク討伐の旗を掲げた。

その旗をなびかせ、カーヴェはフェリドゥーンのもとへと赴く。
「おお、正しき王よ。我らと共に戦ってくれ!」
フェリドゥーンはその声に応え、正義の軍を率いてザッハークの城へと進軍する。
ザッハークとの決戦
カーヴェの率いる軍と共に敵陣へと猛進するフェリドゥーン!

ザッハークは怒り狂い、恐怖に震えながらも、大軍をもって迎え撃つ。しかし、フェリドゥーンは神の加護を受けた英雄。その力は人智を超えていたのだ。
彼はまるで怒れる竜のごとく敵軍をなぎ倒し、ついに王の宮殿へと踏み込んだ。

宮殿の奥深く、ザッハークは待ち構えていた。
暗黒の魔法と呪いを駆使し、フェリドゥーンを襲う。
しかし、フェリドゥーンの聖なる鉄の棍棒が唸りをあげ、一撃でザッハークを地に伏せた。

ワンパンで倒されたザッハークは命乞いをする。
「殺さないでくれ!私はまだ生きたい……」
だが、神々は彼を許さなかった。

フェリドゥーンは彼を鎖で縛り、ダマーヴァンド山の奥深くへと封印した。そこで、ザッハークは終わりなき苦痛の中、永遠に囚われ続けるのだった。
英雄の勝利と新たな時代
ザッハークの時代は終わり、世界は新たな光を迎えた。
フェリドゥーンは正義の王として君臨し、平和をもたらした。

しかし、ザッハークが完全に滅びたわけではない。
伝説によれば、ダマーヴァンド山に囚われた彼は今なお生きており、いつの日か世界に混乱が訪れるとき、その封印が解かれるという……。

フェリドゥーンとザッハークの伝承がもつ意味
この物語は、イラン神話の『シャー・ナーメ』に記された最も有名な英雄譚のひとつであり、善と悪の戦いの象徴ともいえます。
ザッハークは専制政治の暴君、フェリドゥーンは正義の王として描かれ、人々の願う理想のリーダー像を示しています。
また、カーヴェの反乱は、民衆の力が王をも動かし、世界を変えることができることを表しています。これは単なる神話ではなく、歴史を通じて何度も繰り返されてきた真実なのです。
結び
フェリドゥーンとザッハークの物語は、時代を超えて語り継がれる英雄譚であり、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。
ザッハークの封印が解かれぬよう、我々もまた、自身の行いを見直していかねばなりませんね。
補足
ザッハークが封印されたとされる山「ダマーヴァンド山(Mount Damavand)」は実在します。聖なる山として愛されています。少しご紹介。
ダマーヴァンド山とは?
- 場所:イラン北部、アルボルズ山脈に属する
- 標高:5,609メートル(中東最高峰)
- 特徴:休火山であり、ペルシア神話や文学において非常に重要な存在
- 世界遺産候補:ユネスコの暫定世界遺産リストに登録
ザッハークの封印とダマーヴァンド山
ペルシア神話では、ザッハークはフェリドゥーンによって封印され、「いつか復活する」と言われています。
この伝説が結びつき、ダマーヴァンド山は悪を封じる神聖な山と見なされるようになりました。
ダマーヴァンド山は観光地?
登山スポットとして有名
- イラン国内外から多くの登山者が訪れる人気の登山ルートがあります。
- 夏は登山に最適なシーズンで、初心者向けのルートもあります。
- 山頂からは広大なイランの景色を一望でき、神秘的な雰囲気が漂います。
温泉や自然も魅力
- 山麓には温泉が点在し、ハイキング後に楽しめます。
- 周囲の自然景観も美しく、四季折々の風景が楽しめます。
歴史・文化的な見どころも
- 伝説にちなんだ碑や記念碑もあり、ペルシア神話の雰囲気を感じられるスポットです。
まとめ
ダマーヴァンド山は、神話と現実が交差する場所であり、イランの自然・歴史・文化を感じられる貴重な観光地です!
「ザッハークが封印された山」としての伝説を知りながら登ると、より神秘的な雰囲気を味わえますね。